先述の「たどり着く先」はいきなりたどり着けるものではありませんが、一歩ずつなら近づくことはできます。その第一歩を踏み出すとなると、やはり、入門コース的な研修での、AUTOSARに関する「基礎知識」あるいは「必要最低限の知識」の獲得を目標に設定するのが一見簡単なように見えるかもしれません。では、どの役割(立場)でも共通のそのような知識とは何でしょうか。そして、それが得られたところで、何ができるようになるのでしょうか。
実際にはそれぞれの方の役割によって求められる「基礎」や「必要最低限」は大きく異なります。ですから、共通のものだけや、異なる役割向けのものを得たとしても、役割を十分に果たせない、ということになってしまうのです。筆者の経験を基に、役割ごとに各知識分野について必要となる「深さ(難易度)」を表現してみたのが表1です。
この表1は、現時点では直感的なものです。各マスは「深さ」を4段階の色で表現しました。「緑<黄<橙<赤」の順に「深さ」が増していくイメージです。文言は補足的なものであり、例えば同じ「詳細」でも色が異なるものもありますが、そこをあえて細かくは言葉では表現していません※3)。
※3)今後の議論の際に、定義から議論すべきだと思いますし、そこにバイアスをあまりかけたくはありません。
なお、ここでは知識分野を以下の4要素に分けてみました(紙面の都合もあり背景は省略します、以下同様)。
また、役割については、少し細かいですが、以下のように分けてみました。
当然これは議論のスタートに際してのたたき台であり、完成には程遠いものです。開発やインテグレーション、そしてカリキュラム設計の経験から見えてきた役割ごとの性質の違いをぼんやりと表現したものでしかありません。他のエキスパートの方々には異なる見方もあるでしょう。AUTOSAR標準化活動での必要スキルについてもあえて触れていません。もちろん、研修だけで全ての必要なスキルを得られるわけでもありません。ここから先は(結論ありきではない)議論で、と考えていますし、そうなれば、手持ちの検討結果をさらにお出しできると思います※4)。
※4)当然ですが、この連載で全部を開示しているわけではありません(「連載で書いているものが全て」という陰の批判があることを最近知り、大変驚くとともに、とても残念に思いました)。自由に意見をおっしゃっていただきたいなどの理由もあって、意図的に伏せているものもまだそれなりにございますので、その点はご了承ください。
肝心なのは「AUTOSARという大きな塊のまま扱うのではなく、小分けにすること」です。そして、ここで重要なのは「現場からのフィードバック」です。全ての状況を完全に把握している人はいないのです。ですから、最初から完璧なシステムを作れるわけではないのです。であれば、取り得る次善の策はただ1つ、「現場からのフィードバック」の活用です。
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