東京大学は、スマートフォンのカメラを検出器として活用し、高感度で定量性の高い1分子デジタル計測法に対応した小型蛍光顕微鏡を開発した。持ち運びが可能で、高感度デジタルインフルエンザ計測にも成功した。
東京大学は2019年7月18日、スマートフォンのカメラを検出器として活用し、高感度で定量性の高い1分子デジタル計測法に対応した、小型蛍光顕微鏡を開発したと発表した。持ち運びが可能で、高感度デジタルインフルエンザ計測にも成功。臨床現場即時検査(POCT)における高感度デジタル計測の実用化が期待される。
1分子デジタル計測とは、がん、ウイルス、細菌の感染に関する標的分子を定量的に測定する高感度バイオセンシング手法だ。しかし、μmサイズの液滴を観察して蛍光を検出するには、大型の蛍光顕微鏡が必要だった。
今回開発した小型蛍光顕微鏡は、まず、マイクロデバイスの端を黒いゴムで挟み込み、LED光をガラス端から入れることで、全反射を引き起こさない角度の励起光を妨げ、ガラス内を全反射させた。これによって、反射界面にエバネッセント光と呼ばれる染み出し光が生じる。これを励起光として用いるが、エバネッセント光は界面から100nm程度の限定した領域しか届かないため、安価なフィルターでも十分に励起光に起因した背景光を取り除くことができる。
また、従来の大型CMOSカメラの代わりに、画素サイズが小さく、高感度なスマートフォンのCMOSカメラを蛍光検出器として採用した。これによりサイズを23x10x7cmに抑え、小型で簡単に持ち運ぶことが可能になった。
実際に、このスマートフォン小型蛍光顕微鏡を用いたところ、1分子の酵素(ALP)に由来して蛍光を発する微小液滴を観察できた。蛍光を発する微小液滴の数と位置は、従来の顕微鏡によって同視野を観察した画像と一致した。ALPは、ELISAの検出用抗体に汎用される酵素だ。
さらに、1粒子のインフルエンザを検出するデジタルインフルエンザ計測にも成功。インフルエンザ由来の蛍光を発する微小液滴のうち、従来顕微鏡で観察されたものの半数を今回の顕微鏡で観察できた。安価なフィルターと光学系を使用するため、従来顕微鏡より感度は劣るが、病院で使用されるイムノクロマト法による迅速検査キットの100倍の高感度だった。インフルエンザ患者のうがい液からもウイルスを検出できたため、鼻咽頭拭い液に比べて検体採取の負担低減も期待できる。
今後は、デジタルELISAやデジタルPCRといった他の1分子デジタル計測もできるようにすることで、臨床現場で多項目の検査にすぐに対応可能にすることを目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.