車載イーサネットのフィジカルレイヤーはどのようになっているのかはじめての車載イーサネット(2)(3/4 ページ)

» 2019年08月05日 06時00分 公開

クルマの中で使われるもの

100BASE-T1(IEEE 802.3bw)

 これはBroadcomが開発した技術BroadR-Reachを基にした仕様OABR(※4)を、IEEEで規格化したものです。特徴は、1対のペア線(※5)(CANと同様)で最大100Mbpsの通信を、全二重(※6)で行える点です。CANが最大1Mbps(CAN FDでは最大8Mbps)の半二重通信だったことを考えると、飛躍的な速度の向上です。これは、作動信号(BI_DA+, BI_DA-)の採用のみならず、高度なデータ符号化処理(4B3B, 3B2T, PAM3)によりデータを圧縮、通信周波数を下げ、ノイズを抑えることで、実現しています。規格ではペア線のシールドの有無にかかわらず最大15m(※7)までとされていますが、実際の車載環境では狭い場所に配線するための追加のノイズ対策が必要なようで、STPの採用や平行線長に制限をかけるなど、各社で工夫(※8)をされているようです。

(※4)OPEN Alliance BroadR-Reach、OPENはOne-Pair Ether-Net。www.opensig.org/abut/about-open/

(※5)IEEE規格(IEEE 802.3.bw)では”Balanced Twisted Pair Cable”とあり、Unshielded Twist Pair(UTP)とShielded Twisted Pair(STP)を特に指定しているわけではありません。一方、OABRでは、UTPを念頭に置いています。

(※6)全二重と半二重:ノードから見たときに送受信を1つの媒体で同時に行うことができるものを全二重、送信もしくは受信のいずれかのみ可能なものを半二重といいます。身近なもので例えるとすれば、電話が全二重、トランシーバーは半二重です。

(※7)取りあえず通信できればよいのであれば100mくらいまで延ばせるといわれています。

(※8)Ethernet & IP Automotive Technology Day(IEEE主催)などのカンファレンスやJasParなどの業界団体でさまざまな研究・事例発表があります。

図4 100BASE-T1(クリックして拡大) 出典:ベクター

 また符号化は下記の3段階になっています。特に3B2T変換は、3ビット(3回のやりとりが必要)を2つのシンボル(2回のやりとりで済む)に置き換えることで、通信周波数を3分の2に低減しています(100MHz->66.67MHz)。

  • MIIからの4ビット信号を3ビットごとに切り出す4B3B変換
    • この後スクランブリングが行われます。
  • 切り出した3ビットを3つの状態を持つシンボル(Ternary Symbol)2つに置き換える3B2T変換
    • 3ビットは23ですから8つの状態を取れます。それを32、9つの状態に割り当てるということです。
  • シンボルを3つの値(-1,0,1)を持つ矩形波として出力するPAM3
図5 100BASE-T1での符号化(クリックして拡大) 出典:ベクター

 なお、双方のノードからPAM3で出力された電圧はバス上では足し合わされた形で観測されますが、双方の受信処理でそれぞれの出力値を差し引くこと(エコーキャンセル)によって、相手側が何を出しているかを検出する仕組みを持っています。

1000BASE-T1(IEEE 802.3bp)

 これは、100BASE-T1の後に策定された1Gbps対応の車載向けフィジカルレイヤーです。100BASE-T1同様に1つのペア線で1Gbpsを達成しています。符号化方法も共通点が多く、100BASE-T1の4B3B変換の代わりに80B81B変換を行いますが、以降の処理は同じ3B2TとPAM3を採用しています。80B81B変換は、GMIIの扱う8ビットのデータを10組まとめたうえで1ビット追加する仕組みです。

 なお、ここまでお話した2つの規格以外にも、通信媒体としてプラスチック光ファイバーを用いる策定済みの1000BASE-RH(IEEE 802.3bv)や、規格策定中のものとしてCANの置き換えを見据えているといわれる10Mbpsの10BASE-T1S(IEEE 802.3cg)、増え続けるデータに対応するためのマルチギガ対応(2.5G, 5G, 10Gbps, IEEE 802.3ch)のものもあり、今後の動向から目が離せません。

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