続いて、クルマと外をつなぐものとして採用されているフィジカルレイヤーについて、お話していきます。まずは、診断通信に使われるものです。これらは、ここまで紹介したものと違い、車載を目指して開発されたものではありません。クルマと外をつなごうと考えた際に、すでに存在しているテクノロジーをうまく取り入れたと考えていただけるとよいでしょう。
これらは診断通信に使われるもので、診断テスターと診断GWと呼ばれるECUをつなぎます。いわゆる普通のイーサネット規格で、皆さんのオフィスや家庭で使われているものと同じです。一般的に診断通信というと、やはりCANを使ったものが思い浮かびますが、ECUの高機能化に伴うソフトウェアの増加(※9)やネットワークの変化に合わせて、より長い期間使えるネットワークテクノロジーとしてイーサネットが着目されたという背景があるようです。実際の診断通信には、上位レイヤープロトコルとして、本連載の最後の方で紹介するDoIP(Diagnostic over IP, ISO 13400)を併せて使います。
(※9)CANでは書き換えに時間がかかり過ぎるようになってきました。
そのISO 13400は100BASE-TXを念頭において規定されていますが、現実世界では、より高速の1000BASE-Tも使われているようです。100BASE-TXは比較的古いものなので、ペア線2対で100Mbpsの全二重通信ですが、1000BASE-Tは1対のペア線ごとに250Mbpsの全二重通信、それを4対使って1Gbpsを実現しています。
これは、電気自動車の急速充電に使われるもので、かなり異色です。日本国内ではCANをベースにしたCHAdeMOというプロトコルが有名ですが、ISO 15118ではフィジカルレイヤーにPLC(Power Line Communication、電力線搬送通信)の規格IEEE 1901を採用しています。PLCというのは、もしかすると覚えていらっしゃる方もいるかと思いますが、Wi-Fiが普及する少し前に一時期、話題となった「家のコンセントを家庭内LANコネクターにしてしまう」技術です。つまり、電力を通している電線を通信媒体として使うものです。
すでに電力(例えば国内だと100V15A)という大きなノイズが載っているものなので、通信はOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex、直交周波数分割多重化)と呼ばれる変調方式を採用しています。なお、本規格の場合、PLCといっても実際の電力線に信号を載せているのではなく、Control Pilotという制御用の別線に載っている矩形波の上にデジタル変調した信号を重畳しています。
ISO 15118については個別の解説記事がありますのでそちらをご参照ください(※10)。
(※10)関連記事:連載「EV用充電器の通信規格ISO/IEC 15118とは」
今回は、イーサネットの導入に伴うネットワークトポロジーの変化から始まり、現時点で車載(クルマの中で)使われつつあるIEEE 100BASE-T1をはじめとしたフィジカルレイヤーを簡単に紹介しました。次回は、このフィジカルレイヤーの上、データリンクレイヤー(イーサネットフレーム)とネットワークレイヤー(IP)について書いていきたいと思います。
ベクター・ジャパンにて、AUTOSAR関連およびイーサネットのトレーニングサービスに従事。限られた時間のなかで、受講者の役に立つ情報を、より分かりやすく提供することを目指し、日々業務に取り組んでいる。
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