MONOist 地方の病院にはそもそもどういった課題がありますか。人手不足と業務効率、どちらの影響が大きいですか。
佐々木氏 どちらも要因となっている。人手不足もあるし、移動効率がネックで患者10人に往診できるはずが5人しか行けないという場合もある。また、病院内の稼働率の問題もある。日本の病院は、国民皆保険で診療報酬が一律に決まっているので競争が起きにくく、利益を追求してはいけないという風潮もあって、稼働率や収益性をどう高めるかという検討に至っていない。
フィリップスはMRIやCTなど高額な医療設備も手掛けているが、設備の稼働率を上げなければ投資は回収できない。ここにもモビリティが役立つのではないか。患者の移動からスケジュールを組み立てて、病院にあるMRIなどの設備の稼働を調整していければ、収益が改善する。ゆくゆくは、病院から手数料をもらうような形も含めてモビリティサービスの可能性を探っていきたい。
MONOist 病院ともモビリティサービスと議論をしていますか。
佐々木氏 MONETコンソーシアムの方針もそうだが、まずは自治体と連携することが目標だ。成果を見せないと、病院もおカネを出せない。自治体から補助金を得ながら、価値を示せるサービスを作り込んでいく。
MONOist 将来的に、ヘルスケアのモビリティサービスは誰がおカネを払うことで成立するのでしょうか。
佐々木氏 ファーストステップは自治体の補助金で、公立病院の赤字を削減してその一部をいただくような形だ。稼働率や患者サービスの質が上がることを示せれば、大手の病院もモビリティサービスの取引先になるだろう。おカネをもらう相手は病院に限らない。病院に普段行かない、健康な人に向けては、複数の分野を組み合わせたサービスを提供したい。
例えば、高齢者のフレイル予防(※)では栄養と口腔ケア、運動をセットでやることが重要だといわれており、高齢者以外でも健康経営の一環で企業が運動と睡眠をセットで推進する例もある。どれか1つだけで健康が維持されるわけではない。モビリティサービスからは離れるが、運動や食品などとヘルスケアを組み合わせるためさまざまな協業を推進している。ネスレ日本とのパートナーシップでは、フィリップスの呼吸関連のビジネスに、ネスレの食と栄養の知見を組み合わせていく。
(※)加齢による心身の衰えのこと。要介護の前段階。
モビリティサービスでも、運動や睡眠など他の分野と組み合わせればモノ売りにも広がるし、食品などのパートナーシップからおカネをもらう仕組みにも広げられるのではないか。コンシューマーからおカネをもらうのは簡単ではないと考えている。ヘルスケア向けのモビリティも1つのサービスでは十分な稼働率に達しないだろう。月曜は病院の送迎に、火曜は食事を運ぶといった複数の用途を組み合わせて走らせるべきだ。自治体ともモビリティサービスをどう広げられるか、議論を進めている。
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