内部監査を品質不正対応に活用するための実践的なアプローチ事例で学ぶ品質不正の課題と処方箋(4)(2/2 ページ)

» 2019年07月22日 10時00分 公開
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リスクベースの品質監査

品質監査のリスク領域

 前述の通り、品質に関して有効な内部監査を実施するには、他社の品質不祥事事例なども参考に品質リスクの発生要因をできる限り網羅的に捉えた上で、監査計画を立案することが重要と考えます。

 品質リスクは、まず「全社レベルに関わるリスク」および「プロセスレベルに関わるリスク」に大別されます。全社レベルに関わるリスクは、自社の属する業界、企業風土、経営者、組織体制などに関連する会社全体に関わるリスクであり、さらに「外部要因に関わるリスク」と「内部要因に関わるリスク」に分類されます。一方、プロセスレベルに関わるリスクは、不適合品の対応手続のように社内の各部で行われる業務プロセスに関わるリスクを指します。

 本稿では全社レベルに関わるリスクに着目し、「外部要因に起因するリスク」および「内部要因に起因するリスク」について整理した上で、それぞれの代表的なリスクに対する自社の対応状況を監査するための視点を例示します(「プロセスレベルに関わるリスク」に関する監査は次回の連載で解説)。

品質不正の「外部要因に起因するリスク」の監査

1. 「外部要因に起因するリスク」とは

 外部要因に起因するリスクは企業グループが置かれている外部環境に起因し、グループ全体に影響を与えるリスクをいいます。代表的なものには、顧客からの過度な要求、競合とのシェア争いの激化、サプライヤーの供給問題(供給停止、品質不良)などがあります。

図1:品質不正の外部要因に起因するリスク(クリックで拡大) 出典:KPMGコンサルティング

2. 「外部要因に起因するリスク」に関する監査の視点

 図1のように、外部要因に起因するリスクを整理した上で、「リスクに対する取組み状況を確認するにはどのような観点で評価すればよいか」といったことを念頭に、「監査の視点」を作成することが大切です。

表1 外部要因に起因するリスクと監査の視点の関係
外部要因(例) 監査の視点(例)
業界 1 製品規格の厳格化に対応できず、規格未達品を出荷してしまう 業界規格の動きを捕捉し、適時に対応する仕組み、体制の構築
競合 2 競合とのシェア争いが激化し、検査や手順を省略して出荷してしまう 検査や手順を省略できない、省略した場合に発見できる仕組みの構築
顧客 3 納期、性能への過度な要求により、基準未達品を出荷してしまう QCDの無理な受注を許さない厳格な受注前審査
サプライヤー 4 供給される原材料の量、品質、納期に問題があり、自社の生産に悪影響を与えてしまう QCDの観点からのサプライヤー評価
・・・ 5 ・・・ ・・・

品質不正の「内部要因に起因するリスク」に対する監査

1. 「内部要因に起因するリスク」とは

 内部要因に起因するリスクとは、特定の部署やプロセスに限定されない、企業文化や社風、組織構造、事業計画、人事施策、その他全社的に適用されるルールや仕組みなどに関連するリスクです。具体的には、売上至上主義の企業文化、品質保証部門の独立性の欠如、脆弱なコンプライアンス体制、営業からの技術力、生産能力を超えた受注への圧力などが挙げられます。

図2:品質不正の内部要因に起因するリスク(クリックで拡大) 出典:KPMGコンサルティング

2. 「内部要因に起因するリスク」に関する監査の視点

 「外部要因に起因するリスク」の場合と同様に、まずは関連するリスクを整理して、そのリスクへの対応状況を評価するといった観点から検討します。

表2 内部要因に起因するリスクと監査の視点の関係
内部要因(例) 監査の視点(例)
企業文化・社風 1 売上至上主義のため、品質は二の次という意識が蔓延している 品質重視・コンプライアンス重視のミッション、経営者のステートメント
事業 2 傍流に属し、社内で孤立しているため、本社からの牽制が利かない 本社による監視・監督の状況
組織・体制 3 コンプライアンスを重視する仕組みが脆弱なため、不正が行われ、発見もされない 内部通報制度を利用可能な範囲と周知の適切性、通報の実績
経営層 4 過度にコスト削減し、品質を維持するためのリソースが投入されていない 予算策定時における設備投資の検討状況
品質保証部 5 品質保証の独立性が欠如しており、品質に関する牽制が利かない 組織上の品質保証と製造の分離
製造と品質の担当役員の分担状況
営業部門 6 技術力・生産能力を超えた生産を余儀なくされ、品質データを改ざんしてしまう 受注前審査の仕組みと有効な審査
検査工程 7 検査員の削減・人員の固定化により、無資格者の検査などが横行し、発見もされない 検査員の資格認定の状況と検査の適切性
・・・ 8 ・・・ ・・・

最後に

 内部監査を品質リスク対応に活用するため、その体制面の強化策および「全社レベルに関わるリスク」を外部要因および内部要因といった観点で整理し、リスクへの対応状況を監査するための視点について解説しました。

 品質監査を実施することで実際に不正そのものを発見できる可能性もあります。しかし、むしろ品質不正につながるような内部統制上の脆弱性を発見し、それを是正につなげることに本来の意味があるといえます。

 また、近年の品質不祥事において、当事者同士の牽制機能、自浄作用が機能していないことは明らかです。品質リスク対応の観点からも、第三者目線でのチェック機能が期待できる品質監査の体制面、運用面を強化することを推奨します。

筆者紹介

大島英人(おおしま ひでと)
KPMGコンサルティング シニアマネジャー ITストラテジスト・中小企業診断士

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2006年、KPMGビジネスアシュアランス株式会社(現KPMGコンサルティング)入社。一貫して不正・不祥事の防止・発見を中心とする、リスクマネジメントおよび内部監査に関連する業務に従事。近年は、品質不正のリスク評価、およびリスク評価の基づく品質不正防止を目的とした内部監査に関するコンサルティングに注力。


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