IDC Japanは国内における5G通信サービスと5G携帯電話機の市場予測を発表した。国内5Gサービス向けインフラ市場は2023年には携帯電話インフラ全体の投資総額約5000億円のうち8割が5G向け投資になるとした。一方、5G通信サービスや5G携帯電話機の市場成長は期待ほど伸びないと予測している。
IDC Japanは2019年6月20日、東京都内で会見を開き、国内における5G通信サービスと5G携帯電話機の市場予測を発表した。国内5Gサービス向けインフラ市場は、2019年から投資が始まり、2021年から加速を始め、2023年には携帯電話インフラ全体の投資総額約5000億円のうち8割が5G向け投資になるとした。一方、5G通信サービスや5G携帯電話機の市場の成長は期待ほど伸びず、2023年時点で5G通信サービスの回線数は全体の13.5%に当たる3300万回線、5G携帯電話機の出荷台数は全体の28.2%に当たる870万台と予測している。
次世代携帯電話通信技術である5Gは、最大10Gbpsの高速通信、1ms以下の低遅延、1km2当たり100万台の多数同時接続などの特徴を備えている。“次世代”とは言うものの、既に米国や韓国などの一部地域でサービスが始まっており、日本国内でも2019年秋からプレサービスが始まる予定だ。
5Gに対しては、「新たなエクスペリエンスの提供」や「産業応用開拓を通じたデジタルトランスフォーメーション(DX)実現」といった新たな世界の到来の契機になる期待が掛けられている。しかし、当面の5G市場は“徐々に成長する”というイメージが正しいようだ。IDC Japan コミュニケーションズ リサーチマネージャーの小野陽子氏は「技術の高度化、成熟化、低廉化に加えて、エコシステムにおける共創やユースケース開発の増加、既存の接続技術からの移行といった要素が相互作用し、スパイラル的に成長拡大していく。技術が出そろう初期フェーズではやや緩やかで、その後で加速するだろう」と語る。
小野氏はこの前提に立ち、国内大手通信キャリアによる5Gインフラへの投資が進んで、全国で5G通信が“おおむね”利用できるようになる時期を2025年ごろと予測している。「当面の携帯電話通信サービスは4G+5Gのハイブリッドで提供されるし、Wi-Fiや固定通信サービス、企業などがプライベートネットワークとして5G通信を利用するローカル5Gなどと競争および補完関係になりながら普及が進むだろう」(同氏)という。
5G対応の携帯電話機市場も、急速に拡大するというよりは、今後数年は普及の初期段階になるとみている。
IDC JapanのPC、携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリストである菅原啓氏は「2011年に国内サービスが始まった4Gが一般化するまでおよそ6年かかり、フル規格のAdvanced系4Gは2015年の登場からまだそれほど時間がたっていない。このことを考えると、これからも4Gの利用は拡大していくだろう。5G対応端末は、しばらく都市部のハイエンドユーザー向けという位置付けであり、2023年時点でも全体の30%弱にとどまる。多数派になるのは2025〜2026年ごろではないか」と述べる。
国内市場で年間1500万台の出荷規模を持つAppleのiOS端末では、2020年モデルから5G対応端末が投入される見通し。ただし5G対応になるのは最も高価なフラグシップモデルであり、2023年時点でもiOSの5G対応端末の出荷台数は250万〜300万台程度になると予測する。Android端末も同様に5G対応はハイエンドモデルに限られる見通しであり、2023年時点の出荷台数は400万〜500万台程度を見込む。「これら5G対応端末の価格は、現行のフラグシップモデルよりもさらに高価になるだろう」(菅原氏)。
また、5Gの普及が進みにくい要素として、通信キャリアが提供するプランも関わってくる。既に5Gサービスを始めている海外では、通信容量に制限がない、1カ月当たり100〜150米ドルのプランでのみ5Gサービスが利用可能であり、国内の5Gサービス対応プランも同様の傾向になる可能性が高い。本格的な5Gの普及は、高価な端末、高価なプランという制約がなくなってから進むことになりそうだ。
日本市場は、5Gの普及が他の国や地域と比べて遅いといわれることも多い。これに対して菅原氏は「飛び抜けて急速な普及が見込まれる米国を除いて、日本、アジア太平洋地域、欧州、カナダにおける5Gの普及スピードはほぼ同じだろう」と指摘する。2023年時点の携帯電話機市場で5G対応端末が占める割合は、米国だけが60%を超えると予測されているが、日本を含めた他の国と地域は30%前後になるという。
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