エレクトロニクス分野の製造ITツールの大手として知られる図研が、より複雑なシステムの設計に有効なMBSE(Model Based Systems Engineering)に注力している。同社の主要顧客である“エレキの回路設計者”が、設計プロセスの上流やメカ、ソフトなどと「ドメイン」を越えた連携を行えるようにするためだ。
プリント基板の回路設計ツールである「CR-5000/CR-8000」やワイヤハーネス回路設計ツール「E3シリーズ」と「Cabling Designerシリーズ」などで知られる図研。海外勢が有力な製造ITツール業界の中でも、グローバルで優位なポジションを築く数少ない国産ベンダーとして知られている。同社が最も得意とするのがエレクトロニクス分野だ。CR-5000/CR-8000、E3、Cabling Designerと、設計データ管理プラットフォームの「DS-2」を連携させることで、電気電子(E/E)システムの設計からデータ管理までをカバーする体制を整えている。
ただし、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった新たな技術要素が入ることで製造業の製品開発の複雑性が増している。これまでも、製品開発における「メカ」「エレキ」「ソフト」といったドメインごとの分断が問題になってきたが、今後はこれらのドメイン全体を俯瞰する“システム”としての設計を行う「システムズエンジニアリング」が重要になるといわれている。
エレクトロニクス分野に強い図研もこのトレンドを受けて、E/Eシステムの設計開発プロセスにシステムズエンジニアリングを導入すべく事業展開を強化している。2019年2月には、モデルベースでシステムズエンジニアリングを行うMBSEのツールを展開する米国ベンチャーのVitechを買収。図研の現行製品にもMBSEに対応する機能を組み込むなどの対応を進めている。
図研でMBSE関連の取り組みを積極的に推進しているのが、同社 プロセスイノベーション推進部 部長の稲石浩通氏だ。稲石氏は「自動運転車やコネクテッドカーなどは、複数のシステムが組み合わさった『System of Systems』だ。このレベルでの複雑さを持つ製品の設計は、システムズエンジニアリングなしでは不可能だろう。従来の手法で設計できるのはハイブリッド車までではないか」と語る。
自動車業界の設計開発で「モデルベース」と言えば、制御システムの設計プロセスで広く採用されているモデルベース開発(MBD)がよく知られている。MBDとMBSEは、モデルを使って設計を効率よく進めるという意味では同じだが、MBDが制御システムという1つのシステムを対象に運用されてきたのに対して、MBSEは複数のシステムから成る複雑なシステム全体を対象とするシステムズエンジニアリングに基づく設計に用いられるという点で大きく異なる。
さらにMBSEは、自動車業界の設計プロセスを上流から変えつつある。従来の自動車業界の設計プロセスの上流では、自動車メーカー側が要求仕様をまとめた紙の資料やExcelデータなどを使ってサプライヤーとすり合わせて行くことが多かった。しかし、より複雑なシステムを構築するのであれば、その全体像を自動車メーカーとサプライヤーの両社が把握しやすくするためにも、モデルという共通言語を使って情報を共有した方がよい。「MBDで成功を収めた自動車業界は、MBSEについての取り組みも加速させている」(稲石氏)という。
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