これらのステップの中で1つ重要な課題として抽出されてきたのが「データガバナンス」の問題である。須賀氏は「2019年1月のダボス会議でも議論の中心となったが、2019年6月の大阪でのG20でも中心的な議題の1つになると見ている」と語る。
第4次産業革命では「データ」が価値の源泉となると見られているが、データの所有権は誰が持ち、どの範囲で活用できるのかなど、データに対する権利などが整理されていない。「第4次産業革命の成果が正しく社会にもたらされるのかどうかは、データガバナンスがしっかり整備されているかどうかにかかっている。AIやブロックチェーンなども全てデータガバナンスの一部である」(須賀氏)。
須賀氏によると、現在のデータガバナンスには「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)モデル」「中国モデル」「欧州モデル」の3つの種類があるという。「GAFAモデルは企業が主導して世の中のデータを縦横無尽に使うという考え方のモデルだ。一方で、中国モデルは国家が主導してデータを管理し使っていくという考え方となる。これらに対し欧州モデルはGDPR(General Data Protection Regulation)に見られるようにデータの所属元は個人にあり、データの発生源にこそデータの流通を管理する権利があるという考え方だ」と須賀氏は説明する。
ただ、須賀氏は「この3つのモデルは第4次産業革命におけるデータガバナンスとしては必ずしも最適ではないというのが、WEFの考えていることである。そのため、4つ目の道が必要だと考えて議論を進めているところだ」と新たな道の可能性を示す。
データ活用において見るべきポイントは「データの使い道を誰が決めるのかという点だ」と須賀氏は主張する。
「GAFAや中国モデルは、データを使う側が勝手に決めているという仕組みだ。これらの発想で問題となったのが、Facebookでの選挙活動問題がある。これは必ずしも問題があったわけではなく、Facebookの規約には書いてあった。しかし、利用者は規約の1つ1つの項目まで精査しているわけではなく、“正しい合意”が取れていなかったと見なされている。こうした非対称な関係性は持続可能性のあるものとはいえない」と須賀氏は主張する。
一方で「データそのものは流通させることに意味がある」とも須賀氏は主張する。「データは抱え込んでいてもそれほど価値は生まない。同じデータを何度も何度も使ってさまざまな方向性で使用するからこそ意味がある。データを集めた人が投資対効果を得られる枠組みが必要ではあるが、そこを満たした上で正しい同意を実現し、データをより多くの場所で使える民主的な世界を実現するというのがわれわれの考えである」と須賀氏は考えを述べている。
これらの新たなデータガバナンスの中で重要性を増しているのが「正しい同意」の在り方である。須賀氏は「正しい同意の在り方として参考になるのが、医療現場でのインフォームドコンセント(十分な情報を得た上での合意)だ。医療に関して圧倒的な情報を持つ医者と、それらを持たない患者の間では、情報の非対称性が生まれている。その中でも正しい合意を形成するには技術が必要で、医療現場にはその蓄積がある。データガバナンスにもそういう発想が必要だ」と考えを述べる。
この「正しい同意」が得られないままデータ活用が進み、トラブルになったケースもある。須賀氏は例として、Googleの親会社であるアルファベットとカナダのトロント市におけるスマートシティーへの取り組みを挙げる。
この取り組みはアルファベット傘下のSidewalk Labs(以下、サイドウォーク)が進めたもので、道路にセンサーを張り巡らし、道路情報や交通情報などを収集し市民生活に活用するというものだった。しかし契約では、これらの情報はサイドウォークが独占するという形となっていた。道路情報や交通情報などに付随する都市の空間情報は基本的には公共財であり、1私企業が独占してよいものではない。これに気づいた市民が反対運動を起こし、最終的には情報の独占をサイドウォークが諦めたという流れがあったという。
須賀氏は「自動運転やドローンなど新たなモビリティを実装する課題は実はインフラ側にある。ただ、インフラ側でこれらの取り組みを進める受け皿ができておらず、現実的には自治体のIT担当者がよく考えずに、スマートインフラのパッケージなどを導入してしまっているケースがある。こうした背景があり、サイドウォークのような状況も生み出している。同様のケースは世界中で巻き起こっている。こういう状況を止めなければならないというのが、われわれの強い動機となっている。データガバナンスの在り方は全ての人が関心を持たなければならない。都市OSの相互運用性を確保するために必要なハブとなりたい」とWEF 第4次産業革命日本センターの役割について述べている。
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