特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜
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» 2019年02月14日 11時00分 公開

日本製造業の逆転シナリオは“脱自前主義”、「ものづくり白書」の提案ものづくり白書2018を読み解く(後編)(5/6 ページ)

[翁長 潤,MONOist]

システム思考、全体最適化の必要性

 製造業を取り巻く大きな変革期の中で、新たなビジネスモデルへの転換を含め、抜本的な変化を実現する上では、全体を俯瞰して全体最適化を図る観点が特に重要となっている。

 これまでも日本の課題であったシステム思考やビジネスの全体設計力の強化が果たされないと、日本製造業が海外の後塵を拝してしまうおそれがあり、データを介したつながりによる付加価値を追求するConnected Industries実現に向けても同様の課題に直面すると考えられる。

 大きく外部環境が変化し、ビジネスモデルが急速な勢いで変化していく時代においては、従来のように全て自前主義で技術や製品やサービス、人材などをまかなっていくには限界が来ている。そのため、自前主義からの脱却を図り、自らの強みを最大価値に仕上げるために、他者との戦略的な連携などを通じて全体最適となる仕組み(システム)として創り上げることが重要となる。ただ、担い手となる人材は日本においては圧倒的に不足しているというのが現状だ。

 単体のモノとしてではなく、さまざまなモノやコトをつなげて新たな機能をつくり出すなど、全体を俯瞰して組み合わせ、いかに付加価値をつくりだす仕組みとして作り上げることができるかなどが重要となる中、このような「ビジネスをデザインできる人材」や「システム全体を俯瞰して見ることができる人材」の育成と確保の重要性が高まっている。

 人材の輩出に向けては、1つにはシステム思考もしくは、学問としてのシステムズエンジニアリング(システム工学)の習得強化が求められる。システムズエンジニアリングとは、複数の専門分野にまたがる事象を統合し、統合された事象全体としてのシステムを成功させるために必要となるアプローチと手段のことを指す。

 製造業におけるスマート化、デジタル化といった時に、日本の製造業企業の間では、製造工場の中でのライン生産の最適化など狭い最適化の話として捉える向きがある。しかし実際には、デジタルツールを活用して工場現場の生産性を向上させていくだけではなく、バリュークリエイションプロセス全体に及ぶ最適化をシステムとして実現する話と捉えるべきである。そして、そのような取り組みへと転換していく必要がある。

photo 図6:スマート製造の取り組みの捉え方(クリックで拡大)出典:2018年版ものづくり白書

 日本においては、現場レベルでの頑張りで工場の部分的な最適化を図ってきたが、海外拠点も含めて工場での最適生産が一層求められるこの時代においては、今までのやり方の見直しも含めた対応策を模索する動きが期待される。

ものづくりスタートアップとの共創

 Connected Industriesの実現に向けても、必要となるリソース(技術、人材、資金など)全てを自前で獲得していくのは非効率的だ。企業同士がお互いのリソースを活用し合い「win-win」の関係となるエコシステムをいかに構築できるか、エコシステムを活用しながら自らの強みの価値をいかに最大化できるかが鍵を握る。

 他者のリソースの活用という観点では多種多様な連携が存在するが、特に誰にも負けない技術や先進的な人材を有し、かつ俊敏で柔軟な経営が可能であるスタートアップは、協業先としてのニーズは高い。まさにConnected Industries実現の鍵を握る存在ともいえる。

 製造業におけるこのようなイノベーションの担い手として近年注目を集めているのが「ものづくりスタートアップ」である。ものづくりスタートアップとは、他者のリソースなども積極的に活用しながら自らの強みを核に短期間でものづくりを実現する存在である。ものづくりにおいて比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓フェーズにある企業群である。

 ものづくりスタートアップは、通常既存の製造業と何らかの関わりを持つ(受発注、連携、競合関係)ことが多いが、Connected Industries実現の担い手として重要なのは、製造業の企業向けに製品やサービスを開発し提供する存在である点が挙げられる。つまり「製造業向けB2Bスタートアップ」であると考えられる。

 ものづくりスタートアップによるConnected Industriesの推進にあたっては、優れたものづくりスタートアップをいかに増やし成長させていくか、そして、ものづくりスタートアップが生み出すイノベーションをいかに製造業全体で活用していくかが特に重要となる。

 スタートアップは単独で成長していくものではなく、ユーザーや既存企業、大学、金融機関、公的機関などの多くの主体との関係性の中で育まれていく。スタートアップを中心として多様な主体が有機的につながっている形態を、生態系になぞらえて「スタートアップエコシステム」と呼ぶこともある。スタートアップが生まれやすく成長しやすいエコシステムを構築することは、その国や地域の経済や産業の発展に直結する。そのため、世界中の国や地域がエコシステムの構築と強化に取り組んでおり、今や世界規模での「スタートアップエコシステムの構築競争」が起こっている。

 「ものづくりスタートアップのエコシステム」という視点に立てば、本来、日本は世界トップレベルの潜在力を有しているとも考えられる。その大きな理由として挙げられるのが、ものづくりスタートアップにとっての連携先やユーザーとなる既存の製造業の層の厚さである。

 特に、製造プロセスや製造業のバリューチェーンにおける課題を発見し、それを解決するための製品とサービスを開発して事業化していく存在として、ものづくりスタートアップは大きな潜在力を有する。その活躍が期待される。

 その潜在力の発揮のためには、ユーザーとなる製造業企業から詳細なニーズを把握し、試作品を用いた実証実験への協力などを得て、さらにそれを実際に販売し製造現場に実装していく必要があり、製造業企業との連携や協力が重要となっている。

 製造業側にとっても「脱自前主義」「オープンイノベーション」の観点から、スタートアップへの期待が高まっており、スタートアップとの連携やスタートアップの技術や製品の導入に対して意欲的な企業が増えてきている。長期的には、日本の製造業がものづくりスタートアップの「ゆりかご」となり、世界で戦えるものづくりスタートアップを多数輩出し、それによってConnected Industries の実現可能性を少しでも高めるような取り組みが官民には求められている。

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