こうしたターゲットを踏まえ、Global R&D Tokyoでは、自動運転車向けのセンサーキットと、移動サービス用の自動運転車を遠隔監視する管制センターの機能をパッケージで開発している。ここには、センサーのハードウェアと、自動運転車の認知や判断を担うAIのアルゴリズムが含まれる。自動運転車の認知、判断、操作については、管制センターからも関与できるようにする。
スピーディーな開発を行うため、仮想評価環境をフル活用している。路上で再現するのが難しい状況の評価を行うことも狙いとしている。説明会では2種類のシミュレーターを公開した。1つは自動運転車の判断のアルゴリズムを検証するものだ。
Global R&D Tokyoでは、交差点など膨大なシーンでのアルゴリズムによる判断を自動評価している。このアルゴリズムは、公道実証などでも車両に搭載しているものだ。その中で、衝突したか、一定以上の急制動が発生したケースを対象に、シミュレーションを使って人の目で確認しながら重点的に検討できるようにしている。自動運転車の判断が、乗っている人も安心できるものであるかどうかも評価する。
シミュレーションソフトは外部から購入したものだが、電動パワーステアリングは量産品をそのまま組み込んでいる。自動運転車の判断と直結するステアリングの制御の妥当性を見るためだ。例えば、システムの判断に対するアクチュエーターの応答性や、運転をシステムから人に交代する場面でスムーズに切り替えることができるかどうかを見ることができる。
現在、シミュレーターは自動運転システムの認知と判断のアルゴリズムを分けて評価しており、認知や判断、操作の一連の流れ全体をシミュレーションすることは行っていない。「まずは認知と判断を別々にシミュレーションすることがリーズナブルだと考えている。それぞれが難しい技術なので統合してシミュレーションすると、その結果が正しいかどうか見えにくくなる。まずは評価しやすい形で進めていく」(デンソーの技術者)。
もう1つは、仮想空間に複数台の移動サービス用の自動運転車を走らせた状態で、クラウド経由で遠隔監視や乗客対応などオペレーションを検討するためのシミュレーターだ。自動運転車の運行中にトラブルがあった場合の対処や、複数の車両を運用した場合にどのような影響を与え合うかなどを実際にテストする。
例えば、1台目の車両がルート上のトラブル情報を発信すると、センター側でルートを引き直し、2台目以降の車両が修正後のルートで走行できるかどうかを試すことができる。また、ドライバーが乗車しない無人運転車を想定し、体調不良で降車を希望する乗客にスムーズに対応し、周辺の安全を確認しながら再発進できるかといったテストも可能だ。
今後、自動運転サービスの管制センターに対する機能検証では、無人運転車が立ち往生した時にどうするかが大きなテーマの1つになるという。「システムが判断に困って立ち往生してしまった時に、センター側でどのような支援ができるかが問題になる。センターから提供する支援には遠隔操作も含まれる。クルマが進化して状況を把握できるようになる部分もあるが、そのために自動運転システムにとって必要な情報はいろいろ考えられるとみている」(デンソーの技術者)。
ただ、管制センターのオペレーション機能だけ出来上がってもサービスは始められないという。遠隔から車両と連動できることが重要だとしている。
こうした開発を加速するため、先述した通り社外との連携や共創を強化していく。隈部氏は連携のための具体的な施策も紹介した。
1つは、「標準車両の配布」だ。デンソーが日本で開発した自動運転の開発車両を、国内外の取引先や開発パートナーの企業や大学に使ってもらい、さまざまな天候、路面状況などの走行環境のデータを得る。これらのデータから、自動運転車が走行する上での課題を洗い出す。
標準車両は、ベースとなる市販車両、セットアップ、開発環境、データ収集環境を統一する。「1社では100万kmのデータでも、5社で走れば500万kmのデータになる。ハンドリングできるデータ量には限りがあるため、現時点では日米欧中の各地域に数台ずつを配りたいと考えている。しかし、この標準車両だけでなく、量産車も含めれば世界中でたくさんの台数の車両からデータを得ることができる」(隈部氏)。
電子プラットフォームの開発では論理アーキテクチャの共通化も進める。「自動運転車のセンサーの出力、コンピュータでの演算、コンピュータからアクチュエーターへの指示の出し方が、各社でバラバラだと困ったことになる。これは車両単位だけでなく、コンポーネントやソフトウェアも同様だ。これを、業界全体である程度、きれいな構造にしようという動きがある。AUTOSARのインタフェースを活用するなど決め事の上は標準化して、核となる部分は各社で取り組むというイメージだ」(隈部氏)。
開発環境も足並みをそろえる。具体的には、V字の開発プロセスの中で、それぞれのプロセスが使っているツールや仕事のルールを共通化するという。「データのとり方を例にとっても、データの収集や処理の仕方がバラバラだと作業が進まない。そういった部分を統一することで共用化が進む」(隈部氏)。
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