ヤマハ発動機唯一のフェローはインテル出身、2030年に向けデジタル改革に挑む製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ)

» 2018年12月10日 10時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

つながる二輪車のうれしさとは

大型スクーター「TMAX」の欧州モデルは通信接続機能を備えている 大型スクーター「TMAX」の欧州モデルは通信接続機能を備えている(クリックで拡大)

MONOist 製造業を取り巻くIoTやAIといったデジタル化の波をどう捉えていますか。

平野氏 日本の製造業と比べると、世界のデジタル化に対する動きは早い。特筆すべきは中国で、よく例にデジタル化の例で挙げられるシリコンバレーが1カ月できることなら、中国は2週間でやってしまうという勢いだ。

 当社の主力事業である二輪車を見てもどんどんデジタル化が進んでいる。2018年11月にイタリア・ミラノで開催された二輪車ショー「EICMA 2018」では、ライディングアシスタンス、カラー液晶のデジタルメーター、スマートフォン連携などは当たり前になりつつある。デジタルの波が激しく打ち寄せているモビリティ業界の中で、その影響が比較的小さい二輪車であるにもかかわらずだ。

MONOist そういった状況の中、ヤマハ発動機のデジタル化をどのように進めようとしているのでしょうか。

平野氏 製品(モノ)のデジタル化と、社内自体の業務の考え方(会社)のデジタル化に分けて考えている。これら両面で、世界の先進的なトレンドをどう押さえていくかが重要だ。

 まず、製品のデジタル化では、IoTによって製品をネットワークにつなげていく。二輪車であればスクーターから高級バイクまで、農薬散布用などに使われる無人ヘリコプターもつながっていく。表面実装機や産業用ロボットは、既に工場の中でつながっているが、新たにセンサーなどを付加してより多くのデータを収集する段階に入っている。電動アシスト自転車の「PAS」も遅かれ早かれつながることになる。自転車は、クルマとも二輪車とも異なる走行データを取得できるので、その価値に興味を持っている企業も多い。

 では、製品がつながって、顧客にとってうれしいこととは何なのか。二輪車であれば、それぞれの顧客が持つ車両をパーソナライズできるようになる。乗員に合わせてセッティングを変えるといった機能以外にも、購入というプロセスに連携することも可能だろう。例えば、海外ではスクーターを分割ローンで購入することもあるが、事業で利用している顧客は比較的確実に返済してくれるので金利を安くしたりできる。

 もちろん、つながることによって車両のソフトウェアを常に最新に保つことができる。二輪車をコネクテッドにする取り組みは欧州が先行しており、これは盗難防止が理由になっているが、そういった機能は欧州以外でも価値を生む。社会インフラと連携する運行管理や交通管制の機能、ITS(高度交通情報システム)にも役立てられるだろう。

MONOist とはいえ、一般の顧客にとって、つながる二輪車の価値はまだ実感しにくいのではないでしょうか。

平野氏 つながる二輪車は、確かにまだハードルが高い。しかし、ヤマハ発動機にとっても、つなげることでさまざまな可能性が見えてくる。ヤマハ発動機が発行するIDとのひも付けによって、顧客が喜ぶような新たなサービスを提供できれば、それはビジネスとして大きなチャンスだ。

 CAN通信のデータを基に状態監視を行うだけでなく、それらの情報を製品開発のエンジニアリングにフィードバックすることもできる。エンジニアがこだわって開発した部品の精度が顧客にとってあまり意味がなかったり、逆にもっと精度を高めた方がいい部品があったりすることが分かる。もちろん、状態監視によって、従来の定期的なメンテナンスに替わって予兆保全的なメンテナンスが可能になれば、顧客にとっても利便性が高まる。顧客とヤマハ発動機の両方にとって、つながる二輪車には多くのメリットがあることは確かだ

 また、二輪車をはじめとした製品をつなげること以外にも、自社の工場をつなげて価値を生み出すスマートファクトリー関連の取り組みも進めている。AIを用いた目視検査など、現場の協力を得ながらいろいろ進めているところだ。

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