ヤマハ発動機がIoTやAIに代表されるデジタル戦略を加速させようとしている。このデジタル戦略を推進しているのが、インテル出身であり、同社唯一のコーポレートフェローでもある平野浩介氏だ。平野氏に、ヤマハ発動機のデジタル戦略について聞いた。
ヤマハ発動機がIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)に代表されるデジタル戦略を加速させようとしている。二輪車大手として知られる同社だが、2017年の売上高1兆6701億円のうち二輪車は約63%で、レジャーボート、船外機などのマリン事業が19%、ATVなどの特機事業も9%あり、これらに加えて、実装機や産業用ロボット、電動アシスト自転車、農薬散布用ヘリコプターなども業界トップクラスのシェアを占める。さらに海外売上高比率が約90%、海外生産比率も90%以上であり、その事業展開はグローバルに広がっている。
国内の製造業各社がIoTやAIの活用を模索する中で、二輪車をはじめ各製品分野で優位なポジションを築くヤマハ発動機も手をこまぬいているわけではない。2018年1月に、デジタル戦略の加速などを目的とした組織変更を行っており、各事業本部を横断する形での新規事業企画、先進技術開発、デジタル活用の推進やガバナンスといった機能を融合した「先進技術本部」を発足させている。この先進技術本部においてヤマハ発動機の唯一のコーポレートフェローを担当しているのが平野浩介氏だ。
平野氏は、長年勤めたインテルからヤマハ発動機に移り、これまでに得たデジタル関連の知見を基に、デジタル戦略の構築やIoTとAIを活用した新規事業の創出などを進めている。そこで、平野氏に、ヤマハ発動機のデジタル戦略の方向性や、推進していく上での課題、今後の展望などについて聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist ヤマハ発動機に入社する以前、インテルではどのような事業を担当していたのでしょうか。
平野氏 インテルでは、エンジニア、マーケティング、エヴァンジェリスト、エンタープライズ担当、ソフトウェアのエンジニアリングマネジャー、サーバ、ストレージ、ネットワークなどさまざまな役職、分野を担当させてもらった。特に経験として大きいのは、2000年ごろから、大手の顧客企業に対して、ベンダーニュートラルな立場からデジタル化に関わるコンサルティングをやらせてもらったことになるだろうか。顧客企業の事業開発につなげられたし、インテルにとってのビジネス開発にもなった。
インテルも当初は半導体チップを売っている企業だった。しかし、2000年以降は、コンピューティングパワーの向上によって新しいビジネスモデルが台頭するようになった。大量のデータを処理したいという需要が生まれ、それらのデータを蓄積するためのストレージも必要になり、つながるためのネットワーク技術も大きく進化した。インテルはこれらの需要に応えるべくポートフォリオを拡充し、その需要創出を加速するために、新たなデジタルトランスフォーメーションを顧客企業とともに作り、グローバルで展開する必要があった。そうすることで、最終的に半導体ビジネスの成長に落とし込めるからだ。
そのころ、実際に大きな需要が生まれたのが、自動車のCAE向けのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)になるだろう。衝突解析や流体解析を活用して、自動車の設計開発のリードタイムを圧縮し、競争力の源にするためのものだ。他にも、オフィス環境の生産性向上に向けた、モバイルデバイスやプロジェクター、Wi-Fiなどを活用したデジタル化や、銀行などによる富裕層向けサービス提供に必要な金融工学のためのHPC導入、教育関連、ヘルスケア、ライフサイエンス、小売り、運輸など、さまざまな顧客のデジタル化の取り組みに携わることができた。
MONOist そういった経験を積み重ねたインテルから、ヤマハ発動機に移ったのはなぜですか。
平野氏 それまでは顧客企業に対してデジタルを売る側だったが、デジタルを使う側になって、使いこなしてビジネスにつなげたいと考えた。ベンダーとしては、売ってしまえばそこで終わりで、売ったものによって本当に成長しているかは分からない。しかし、使う側になれば、実際にリーダーシップを発揮して、有効な使い方をしてビジネスを変えられる。そういったことに興味があった。
そしてヤマハ発動機は、良いモノを作って売ることを主業とする典型的な日本の製造業だ。そんな典型的な日本の製造業で、これまで積み重ねてきた知見を生かして新たな価値を生み出すためのチャレンジをしたいと考えた。
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