スピード・レイティング法は、実際に行われた作業速度を観測者が考える正常作業速度と比較して評価する方法です。それゆえ、この方法を採用する場合には、観測者は正常作業速度についての正しい評価基準を持っていることが重要です。これらの基準は、説明や書物によって得られるものではなく、その作業に対する深い知識と瞬間に評価できる直感力を必要とします。
作業速度を瞬間的に正確に見極めるためには、最も効果的な訓練方法は画像による訓練です。この画像は24種類のモデル作業(事務作業、簡単な手作業、簡単な機械作業、包装作業など)のそれぞれについて、5つの異なった作業速度で行ったものを撮影した場面が収録されており、それらの映写順序はランダムに配列されています。被訓練者(観測者)は、自分の持っている正常速度の基準に従ってレイティングし、一通り終わると正しいレイティング係数が示されます。これら2つの数値をグラフに記入し、自分のレイティングが正確であったかどうかを反省します。
一般に、レイティングには±5%の誤差は許容されることになっていますので、グラフへの記述を使って、正確なレイティング範囲に入ることと、そのバラツキが小さくなるように何回も練習していきます。また、訓練は終えても当分の間は、現場へ観測に出向く際には、レイティング訓練用動画を毎回見て目を慣らしてから観測を行うことも効果的です。
最近では最も多く採用されている方法で、観測者はその作業の難易度を判断し、その判断に基づく正常速度のイメージを描いて、それと比較してレイティングをします。正常速度を100とし、いま観測値のレイティングが標準作業速度より遅く90と評価すれば、観測時間に0.90を乗じて正味時間を求めます。また、正常速度より遅くて110と評価した場合は、観測時間に1.10を乗じて正味時間を求めます。
この方法は、主観的になりがちな判断要素を取り除き、数理的に求めようとするものです。観測した作業の中で作業の内容が多少変わっても、それらに共通に発生する要素作業から1つないし2つの代表を選び出し、一定のルールで前もって基準時間値を算出しておきます。その多くは、WF法、MTM法など、PTS法で決められます※)。
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次に、実際の時間観測を行ったあと、観測した各要素の中で既に基準時間が算出されている要素の実際の時間観測値と基準時間値の比率を計算します。このように計算された比率をそのままレイティング係数として、実際の観測値に乗じて正味時間を算出します。
PTS法での速度が果たして要素ごとに常に一定の関係にあるのか、一部の要素の比率で全体をレイティングするのは誤差が拡大されないか、という問題があります。1つの要素作業のレイティング係数が、他の要素作業にすぐに当てはまるという仮定は、信頼性が薄いように感じられますが、全作業にPTS法が適用できない場合に、近似的方法として多く利用されます。
レイティングにはいろいろな方法が提案されて、その方法が試みられていますが、いまだに普遍的かつ絶対的ものは存在していません。主な問題点として次のようなものが挙げられます。
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物の加工や組み立てを行う際の標準時間(S.T)は、原価管理、生産管理、設備投資計画、作業訓練など、経営管理には欠かせない指標です。一言で「標準時間」といっても、どのような時間のとらえ方をして運用すれば良いのかという問題に直面してしまいます。こういうとき、解決の糸口となるのが「レイティング」です。その内容を学習したとき、眼からうろこが落ちた気さえしたことを今でも忘れられません。
今回は、レイティングについて、かなり詳しく説明をしたつもりですので、ぜひとも経営や作業管理に、「時間」のファクターを取り入れていって欲しいと思います。そのことによって、磐石なワンランク上位の企業として成長を遂げることができるはずです。
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MIC綜合事務所 所長
福田 祐二(ふくた ゆうじ)
日立製作所にて、高効率生産ラインの構築やJIT生産システム構築、新製品立ち上げに従事。退職後、MIC綜合事務所を設立。部品加工、装置組み立て、金属材料メーカーなどの経営管理、生産革新、人材育成、JIT生産システムなどのコンサルティング、管理者研修講師、技術者研修講師などで活躍中。日本生産管理学会員。
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