特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

スマート工場の“障壁”破る切り札か、異種通信を通す「TSN」の価値いまさら聞けない第4次産業革命(27)(3/4 ページ)

» 2018年11月28日 13時00分 公開
[三島一孝MONOist]

「TSN」は製造現場をどう変えるのか

 これが製造現場をどう変えるのでしょうか。

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TSNのポイントは名前の通り時間を厳密に規定できるイーサネットの拡張規格であるということね。既存のイーサネット配線などはそのままにリアルタイム性を確保した通信が行えるの。


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それで製造現場はどう変えられるんでしょうか。


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最初に注目されたのは、ERPシステムなどの上位の基幹系システムからダイレクトで製造現場まで結ぶことができる仕組みとしてではないかしら。今は現場のリアルタイム性などの面から、基幹系システムと現場の間にエッジコンピューティング層を挟むような考え方があるけれど、TSNがあればそれを飛ばせるというような考えね。


 現在考えられているスマート工場の仕組みは、その多くが3層に分けられています。1つが、現場情報などをFA層。これは機械やその中で取り付けられたセンサーなどのレベルからこれらを制御するコントローラーくらいまでの領域を示します。一方で、企業情報などを担当するITシステムが上位層として存在します。

 ただ、このFA層とIT層を直結することは、2つの点で難しいとされてきました。

 1つは、使わない膨大な情報を通信するムダです。現場からデータを取得しようと思えば、毎秒単位で膨大なデータを取得することが可能です。しかし、仮にデータ分析などをするにしても、データ分析で使わないデータまで集めて蓄積する通信インフラやストレージなどで大きなムダが生じます。

 もう1つがリアルタイム性の問題です。緊急停止など現場での制御などに関連する領域では、上位システムと通信を行っている間に、さまざまな作業が流れてしまい、もし現場で危険があった場合に対応が間に合わないという状況が生まれます。

 この2つの課題に対応するために設置されたのがエッジコンピューティング層です。間でこれらの情報の最適な差配を行い、緊急性が高いものは反射的に現場にフィードバックする役割を担います※)

※)関連記事:スマートファクトリーはエッジリッチが鮮明化、カギは「意味あるデータ」

photo エッジクロスコンソーシアムが考えるスマート工場の仕組み。FA層、エッジコンピューティング層、ITシステムの3層に分けられていることが分かる 出典:エッジクロスコンソーシアム

 TSNを使うことでこの2つ目のリアルタイム性の領域は解決できる可能性が生まれるために、上位のITベンダーなどから注目を集めたというわけです。

 例えば、インダストリー4.0の推奨通信プロトコルとして「OPC UA」があります。OPC UAはエッジコンピューティング層でまとめられた現場情報を上位システムに送るのに相性の良い通信だとされています。このOPC UAがTSN対応を進めていますが、これは、上位システムから現場までを一元的な通信プロトコルでカバーすることを志向したものだとされています。実際は時刻同期性は確保できるものの、通信速度そのものが速くなるわけではないので、現場の制御で使うためには制限があるのですが、時刻同期で一貫したタイムスタンプが得られれば分析などにも使いやすくなるため、TSN対応には大きな期待が寄せられています。

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