次に野田氏は、日本企業復活のための3つのキーワードについて聞いた。樋口氏が挙げたのは「世界を見る視点」「フォーマリティー(形式的であること)の強さをどう変えるか」「ダイバーシティー」だ。
世界を見る視点では、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、アリババなどのデジタル化戦略、中国のモノをコモディティ化していく圧倒的パワーを知る必要があるとした。これらの世界の潮流に対してスピード感を持って対応する上で足かせになるのが、日本企業のフォーマリティーである。また、同質圧力が強い日本の企業カルチャーがダイバーシティーを生み出しにくいことも指摘した。「ロシアワールドカップにおけるサッカー日本代表も、世界で活躍するために強い個を作った上で一体になり躍進した。そういったダイバーシティーが必要だ」(樋口氏)。
また野田氏は、この20年間で企業価値の世界トップ20社に残っているのがマイクロソフトだけであることを挙げ、日本マイクロソフトで社長を務めた樋口氏に、なぜそれが可能になったかを聞いた。樋口氏は「(2014年からCEOを務める)サティア・ナデラ氏が、企業経営と企業文化、両面のトランスフォーメーションに成功したことが大きな要因だろう」と説明。当時、PCのOSとしてWindowsでトップを走り、ある種の傲慢(ごうまん)さを持っていたマイクロソフトにおいて、「電機やガス、水道のように、蛇口を開いたらソフトウェアが出てくるようになると考え、クラウドシフトを進めた。傲慢なカルチャーも変えた」(同氏)という。
野田氏は、マイクロソフトにおけるトランスフォーメーションの経験を踏まえ、パナソニックをどう変えていくかを聞いた。樋口氏は「まずはライトカルチャーにしていくことが必要。その上で、トップの方針に対するガバナンスがきく海外企業とは異なり、日本企業では腹落ちとガバナンスのバランスをとる方がよい」と強調する。
新浪氏が挙げた3つのキーワードは「アジリティ」「実るほど頭を垂れる稲穂かな/悠々として急げ」「水と生きる」だ。
アジリティについては「アジリティやスピードを重視するとミスは起こり得る。重要なのは、それを経営側が許容することだ」(同氏)とした。そして、実るほど頭を垂れる稲穂かな/悠々として急げについては、前者が三菱商事を退社する際に贈られた言葉であり、後者はサントリーホールディングス会長の佐治信忠氏が新浪氏入社の際に教えた開高健氏の言葉だという。新浪氏は「企業経営はどうしても急いでしまう。そうなると、樋口氏の先の話ではないが、全体を見ずに目の前の木ばかり見てしまう。“悠々として”が重要だと、あらためて感じる」と語る。「水と生きる」は、サントリーホールディングスで企業全体の考え方を共有するためのもので、他にもサントリー創業者の鳥井信治郎氏の言葉でもある「やってみなはれ」や「社会との共生」などもある。
【訂正:佐治信忠氏の名前に誤りがありました。記事本文は訂正済みです】
新浪氏と野田氏は最後に、「これからのパナソニックを変えていく上で、樋口氏に頑張ってほしい」とエールを送り、パネルディスカッションを締めくくった。
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