OKIデータ LED統括工場では、カラープリンタのLED関連部品の組み立て工程において、双腕ロボットと強化学習を組み合わせることで最適化を実現し、生産ライン構築における技術者の工数を10分の1に削減することに成功したという。
労働力不足などが深刻化する中、製造現場でも効率化や省力化を図ろうとする取り組みが活発化している。その中で鍵を握るとされているのがロボットとAI(人工知能)の活用である。産業用ロボットは既に多くの製造現場で活用が進んでいるが、これらをAIと組み合わせるとなるとハードルは高い。しかし、この取り組みを製造現場だけで実現し、既に量産工程で活用し成果を残している工場がある。群馬県高崎市にあるOKIデータ LED統括工場である。
OKIデータ LED統括工場では、LED関連モジュールの組み立て工程において、双腕ロボットと強化学習を組み合わせることで最適化を実現し、生産ライン構築における技術者の工数を10分の1に削減することに成功した。さらに、驚くべき点は、AIおよび必要な各種治具の製作をほぼ独学により内製したことだ。一連の取り組みを主導したOKIデータ ハードウェア技術本部 要素技術センター 谷川兼一氏に話を聞いた。
OKIデータ LED統括工場は、LED印字ヘッドおよびLEDモジュールのグローバルマザー工場としての役割を担う。LED印字ヘッドは、OKIデータの主力製品の1つであるLEDカラープリンタの基幹部品だ。OKIでは1981年からLED関連製品の量産を開始。組織体制や拠点なども変わりながら、現在はOKIデータのLED統括工場の姿になった。現在の群馬県高崎市の拠点は2009年にルネサス テクノロジ(現在のルネサス エレクトロニクス)から買収したものだ。従業員数は約70人で、プリンタの完成品製造工場である福島工場や中国工場、タイの2工場などとの連携で、生産を進めている。
マザー工場としての位置付けから、生産性革新への取り組みも継続して取り組んできたが、自動化領域をさらに拡大するために、IoT(モノのインターネット)やAI、ロボットの活用を検討したという。
背景の1つとしてあったのがクリーンルームの存在だ。LEDモジュールの生産工程では、クリーンルームでの作業も数多く存在するが、その中でも多くの人手の工程が存在している。しかし「危険なガスも扱うために、人が作業するのは大変な状況もある。教育コストなども大きくなりがちで、自動化を進めることはできないか、と考えた」と谷川氏は述べる。
そして、自動化を進める中では「従来型のベルトコンベヤーは設備投資が大きくなりすぎる上に変化に弱くなる。ロボットを活用することで設備投資を抑制しながら自動化が進められると考えた」(谷川氏)とする。しかし、ロボットを活用するにしても、さまざまな工程を組み、ティーチングをし、ライン変更が起こるたびに全ての作業をやり直す必要があるのでは、技術者の工数が多くなりすぎる。
「従来の製造現場におけるロボット活用は現場技術者の工数が非常に多くかかっていた。大量生産の現場であればそれでも良いが、少量で変動が多い現場ではロボットを活用して自動化しようとすればするほど、現場技術者の工数が膨大に増えるという本末転倒な状況が起こっていた。これをなんとかできないかというのが課題感としてあった。そこで検討したのがAIの活用による、ロボット活用の容易化だった」と谷川氏はきっかけを述べている。
そこで目指したのが「内製AIによる実工場と仮想工場の融合で実現するロボット自動生産システム」だ。「実工場と仮想工場の融合」などは高い目標にも見えるが、そういう目標が掲げられたのは、前提として工場の生産情報を取得し一元的に管理することができていたからだ。
先述したようにOKIデータのLEDカラープリンタは、マザー工場であるLED統括工場の他、福島工場、中国の深センにある工場、タイのランブーンおよびアユタヤにある工場などが連携し、LEDチップからチップ基板、LEDヘッド組み立て、最終製品組み立てまでの工程を分散して実施している。
工場ごとに工程が分かれているような状況であるため、効率的な生産や品質の確保を実現するには、工場の生産情報の共有が必要となる。そのため各工場の生産情報を共有するデータベースシステムとして「OPTAS」を2010年から開発。これによりグローバルの各拠点における生産情報を全て共有できるようになり、材料やLEDチップ、LEDヘッド、完成品などの全てのトレーサビリティーを確保できるようになっていた。
新たに開発した「ロボット自動生産システム」では、強化学習においてさまざまなデータを活用しているが、前提としてOPTASのような仕組みがあったからこそ、自由な学習が可能だったといえる。
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