OKIデータ LED統括工場では、このロボット自動生産システムの検討を、「OPTAS」定着後の2016年頃に開始。1年強で量産を開始する短期間導入を実現した。これには、2つの要因があるという。1つは「設計も含めてトータルデザインで取り組んだ」という点と、もう1つは「身近に手に入るものでお手製で作り上げた」という点である。
もともと、ロボットによる自動化で「技術者工数を削減する」ということも重視していた点を先述したが、工程の状況によっては生産技術側だけで取り組むよりも設計変更などを行った方が現場の負担が小さくなったり、トータルコスト削減につながったりするケースも多い。「これらを全体のプロセスを考えて、全体最適を追求していくことが、低コストで成果を生み出すには重要だ」と谷川氏は考えを述べている。
実際には、ロボットで全作業を完結させ、さらに行動の数自体も絞り込むことを行った場合、従来の人が作ることを想定した設計では難しい場面も出てくる。「例えば、ロボット自動生産システムではキャリアを共通化したところがポイントの1つだったが、キャリアに搭載したままつかんで焼入れを行う工程などもある。同工程では部材の形状を変えなければどうしても問題が生じる部分があったが、ここを全体プロセス上の利点を訴えて変更したということもある」と谷川氏は述べる。
さらに、OKIデータ LED統括工場の特徴が、これらの技術をほとんど、独学と市販品で実現してしまったところだ。ほとんどを内製で実現したために、早期の量産導入が可能になった。
谷川氏は「『Visutal Studio』はツールとして購入しているが、オープン画像データベースの『OpenCV』やプログラム共有サービス『GitHub』などを活用。強化学習なども独学で文献をいろいろ探して、活用できるものを作り上げた。ハードウェアもカメラやセンサーなど、ほとんどが通信販売のWebサイトを活用して買ったものばかりだ。マイコンも『Arduino』で作った。キャリアも3Dプリンタで製作した」と、ほとんどを市販品を組み合わせることで実現したという。
その効果として「ほとんどが内製で自分たちの改善や工夫の範囲内で実現できるために意思決定なども早く、対応などもすぐに実現できた。われわれがやりたかったことに大規模なシステムは必要なく、必要最低限の結果を低コストで実現するには、自分たちで開発するしかなかった」と谷川氏は述べている。
これらの取り組みで得られた成果として、谷川氏は「一番大きかったのは、ロボットの導入を10倍容易にできたことだと考えている。現場技術者の工数は累計でほぼ10分の1となり、導入に必要な期間も10分の1にできた。さらに変化にも強い」と価値について語る。また、ロボットの無人稼働に成功したことで、従来30%程度の稼働率だったロボットを24時間稼働にでき「ロボットの稼働率も3倍だと理論的にはいえる」(谷川氏)。
さらに想定外の利点なども得られたという。「ロボット自動生産システムの形成工程には5つのキャリアがあるが、人間が同様の作業工程で今回の作業を行う場合、この5つのキャリアを全て埋めて、次の工程に回すという流れになりがちだ。しかし、AIによる学習の結果では、このキャリアに2つか3つしか生産在庫を置かず、その方が15%生産性が向上することがわかった。当初はなぜなのか分からなかったが、よく考えると生産工程の中で検査工程が必要な時間が長くボトルネックとなっていたため、そこで処理できる以上の生産在庫を抱えても意味がないために、キャリアを活用しないということが分かった。そうした未知の発見ができることも大きい」と谷川氏は成果について述べている。
今後に向けては「ロボットをAGVに乗せて、移動させながら生産することを考えている。移動ができないことで今の工程でも無理がある部分がある。ロボットが移動することで、さらに生産性を高められる」(谷川氏)とし、新たな取り組みを開始しているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.