ソニーの事業領域は大別すると「エレクトロニクス」「エンタテイメント」「金融」の3分野に分けられるが、ソニーの価値として訴求するのが「人に近づく」ということだと吉田氏は強調する。
「感動」は、クリエイターが生み出したコンテンツを、「撮る」「録る」「再生する」「見る」「聴く」などの機器やサービスなどを通じて、ユーザーに届けたときに生まれる。ソニーはこの一環した流れをサポートするということを企業価値と位置付ける。
その意味で考えると、「エレクトロニクス」は、クリエイターとユーザーの「間」を担う製品だという位置付けとなる。より便利に、より価値を高く、コンテンツを届けることで「感動」を生み出し、価値を拡大するということが役割だ。「エンタテイメント」はコンテンツを生み出す現場でありクリエイターに近づき、より豊かな創造活動が行えるようにすることがポイントとなる。「金融」は、早期からソニーの中で顧客と直接つながる「Direct To Consumer(DTC)」ビジネスであり、ユーザーに近づく中で直接価値を提供するモデルケースとしての位置付けだとする。
このような現在の事業をベースとして、吉田氏は具体的に以下の3つの方向性を打ち出した。
この中で現状の課題となっているのが2番目のブランデッドハードウェアである。同領域に含まれるスマートフォン事業は赤字に陥っているが吉田氏は「ブランデッドハードウェアは今後3年で最も安定したキャッシュフローを生む事業だと考えている。長期的にキャッシュを生み出し続ける状況を実現する。ただ、その中での最大の事業はモバイル事業であり、ここが赤字であることは重く受け止めている。調達、製造、販売のサプライチェーンの中で考えた場合、テレビやカメラだけでなくモバイルがあるから長期的に安定化につながる部分もある。集中と選択を進める他、オールソニーで改善につなげたい」と述べ、この中期経営計画期間内に収益の安定化を実現する考えを示す。
また、全体的に躍進のカギを握るのが「コンテンツIP」と「DTC」の強化である。PS4やPSNなどのゲーム&ネットワークサービス事業などをはじめとして、これらを強化していくことで継続的に顧客との関係性を確保し収益を確保できる「リカーリングビジネス」の拡大を図る方針を示している。
一方で今回の中期経営計画期間中には設備投資1兆円を行う予定としている。その多くを使うのは現在も利益の源泉となっているCMOSイメージセンサー事業である。CMOSイメージセンサーは現状ではスマートフォン向けが大半となっているが、車載向けでもデンソーの採用など実績が出始めている※)。
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吉田氏は「ソニーは現状ではCMOSイメージセンサーの用途としてイメージング領域での採用は進んでいるが、センシングの領域では高いポジションではない。しかし、培った技術力を見てみると、例えば、センシングのスピードや広いダイナミックレンジ、低ノイズ、感度などは、これからの自動運転に必要になる要素であり、貢献できると考えている」と力を込める。
今回の新たな中期経営計画で特徴的だったのが目標とする経営指標に累積営業キャッシュフローを置いた点である。この狙いについて吉田氏は「営業利益などを目標に置くと3年で利益として成果が出ることに焦点を当てることになってしまう。経営の長期視点を大事にしたいというのがポイントだ」と述べる。
営業キャッシュフローは企業が本業によって得たキャッシュの量を表しており、事業活動の成果がどれだけ金額面で出ているのかを分かりやすく示した数値であり「本業の事業強化に力を注ぐ」ということをより強調したといえる。
ソニーでは2020年度までの3カ年で2兆円の累積営業キャッシュフローを目指すとしているが、これは2015〜2017年度の1兆4802億円に対し5000億円以上も増やした数値となる。吉田氏は「安定した高いレベルのキャッシュフロー創出を目指したい」と抱負を述べている。
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