VRを快適に視聴する条件の1つに、個人の瞳孔間距離に応じた調整が挙げられる。だがこの調整は現在のところ容易ではない。今回は、IPDキャリブレーションソフトウェア「IPD-360VR」を開発したメンバーに、その効果や開発に至った背景を聞いた。
さまざまな場面でVR(バーチャルリアリティー)コンテンツを体験する機会が増えている。体験の際はどのような調整を行っただろうか。そして快適な視聴体験は得られただろうか。
立体視を用いたコンテンツを快適に見る要素の1つに、IPD(interpupillary distance、瞳孔間距離)がある。だがこの調整に対応しているVRゴーグルはそれほど多くない。そこで、B.b.designLab 代表取締役の安田裕治氏とアンビエントメディア代表の町田聡氏は、IPDに関するキャリブレーションを容易に行うことができるソフトウェア「IPD-360VR」を開発。2018年1月にB.b.designLabから提供を開始した。
このソフトウェアを開発した背景には、快適なVRコンテンツの視聴にはIPD調整が欠かせないこと、また良質な体験を提供することがVR業界の健全な発展には欠かせないという考えがある。
IPD-360VRの監修者である町田氏は、立体映像やプロジェクションマッピングをはじめとする、映像全般のプロデュースに携わる。最近取り組んだVRコンテンツの1つは、「市川猿之助と巡る 比叡山 回峰行者の歩む道」だ。足元の地図とともに市川猿之助に案内されながら比叡山の修行場所を見て回ることができる。
一方、開発を担当した安田氏は、映像・音響・CGなどの製作システムの設計施工や、ソフトウェア開発およびコンテンツ制作、画像伝送システムなどの開発を手掛ける。最近の事例には福岡スクールオブミュージック&ダンス専門学校のバーチャルスタジオがある。バーチャルスタジオは、ブルーバックを背景にした人や楽器とCGを合成し、リアルタイムでカメラの動きにCGが追従するシステムだ。
両氏は独立して活動する一方で、空間および体感デザインを手掛ける企業であるシンク・デザインとチームを組むこともある。シンク・デザインには、CGや実映像のビジュアルやサウンド、照明、システムなどさまざまな専門技術を持つメンバーが集まる。通常はVRやAR、プロジェクションマッピングなどは独立したコンテンツとして捉えられることが多いが、シンク・デザインはこれら全てを扱うことが可能だ。顧客が利用者に提供したい体験はどんなものなのか、体験者の属性、運営方式などの希望に応じた最適な空間と、その中身であるコンテンツを一体化して提案できるという。
依頼主と協力しながら総合的な空間デザインを行った大規模な事例が、三重県四日市市の新ごみ処理施設「四日市市クリーンセンター」の見学コースだ(図1)。四日市市は市民の環境問題への関心を高めるとともに、ごみ処理施設のイメージアップを目指している。見学コースは主に子どもを対象としており、全体がストーリー仕立てになっている。オリジナルCGキャラクターを登場させて、子どもたちが楽しみながら学べるコンテンツをめざしたという。
体験者ははじめの部屋で導入映像を見た後、ごみを象徴するボスキャラに乗っ取られた街が描かれた通路(ブラックライトに照らされている)を通り、原寸大のごみクレーンや炉室内部などの投影映像を交えながら各工程を見学する。発電タービンの部屋では、白く塗られた発電タービン上にプロジェクションマッピングによって発電している様子を見せる(図2)。ボスキャラを倒した後は通常のライトに照らされた通路を通って帰るという流れだ。
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