IPD-360VRは、両眼視差を利用した立体視における2枚の画像の間隔を調整することによってキャリブレーションするソフトウェアである。IPDは個人によって異なり、日本人成人はおよそ60〜65mmである。なお6歳の子どもは50mm程度だ。
立体視は個人差はあるが、人の目やメガネ、ゴーグルのレンズの光軸が左右それぞれで一直線上に並び、光軸の先に映像があり、かつ左右の光軸が平行な場合が理想とされる。ハイエンドのゴーグルには、レンズ間隔の調整機能やソフトウェア上でのIPD関連調整機能が用意されている。だが安価なゴーグルには用意されていないことも多い。また多くのゴーグルが日本人成人男性の平均IPDを基準に設計されている。
光軸が自分の目に合っていなければ、像が二重に見えて目が疲れたり、VR酔いになったりといったことが起こりやすくなる。またその人に合わないIPDを元に設計されたゴーグルで映像を見続けると、無理に不自然な状態に視線を固定することになり、斜視になる可能性も高まる。
適切な視聴環境を用意するためには、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツそれぞれを個人のIPDに合わせて最適化する必要がある。ハードウェアはゴーグルの設計、ソフトウェアは左右の映像間の調整、コンテンツは実映像であれば撮影時のレンズ間距離やステッチング(複数のカメラで撮影した映像のつなぎ合わせ)方法、CGであれば左右のカメラ設定などになるという。だが現状は全てをオーダーメイドすることは不可能だ。ただし、IPD-360VRのようにソフトウェアによる調整だけでも行えば、負担はかなり軽くなるという。
IPD-360VRはディスプレイにスマートフォン(以下スマホ)を採用するゴーグルだけでなく、PCベースやスタンドアロンのゴーグルでも使用できるソリューションだ。特にスマホのようにサイズが異なるディスプレイを使用する場合に有効である。IPD-360VRを組み込んだ再生ソフトウェアであれば、使用する手順は非常に簡単だ。ゴーグルにスマホを取り付け、まずゴーグル側のピントや左右のレンズ位置を合わせた後にゴーグルをのぞくと、左目側の画像には白、右側の画像には黒で書かれた番号が表れる。体の向きを変えながら、最も白と黒が重なって見える数字を選択する。これだけでキャリブレーションは完了する。
このキャリブレーションを行うことで、見る時の負担が軽くなり人によっては左右のずれがなくなるとともに、より鮮明に臨場感を持って見えるようになるという。2017年のInter BEEでは、体験した人のほとんどが調整後に今までより画像がはっきりと見えるようになったという。またメガネを掛けた人は特にIPDの調整が難しいといわれるが、IPD-360VRを使用したところ、メガネを掛けているゲームユーザーも、ずれを感じにくく今までにないほどはっきり見えたという声があったという。
シンク・デザインは、モバイルVRビュワーと手軽に利用できるVRコンテンツ配信システムからなるサービス「QUICK360」の提供も行っている(図4、5)。ビュワーは現状の簡易ビュワーの中で最も容易に配布、持ち運びできるものを目指したという。またVR撮影も手軽なものから高品質タイプまで広く対応するトータルソリューションとなっているが、撮影、配信、視聴のいずれかだけでも提供可能となっている。
VRの提供者はイベントなどでQRコードとビュワーを配布し、視聴者はスマホでQRコードを読み込むことにより、手軽にVRコンテンツを視聴できる。YouTubeを利用する方法であれば、視聴者は既にインストールされているYouTubeアプリを使用すればよく、新たなアプリのダウンロードは必要ない。「手軽に体験してもらうことによって、VRにより親しみを持ってもらえれば」と町田氏らはいう。
将来的には、IPD-360VRをQUICK360の配信システムに組み込みたいという。さらにIPD-360VRの展開先として、コンテンツ冒頭やアミューズメント機器において、各コンテンツを利用する前などに組み込むことも考えられるという。
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