環境発電(エネルギーハーベスティング)の分野で知られる技術「EnOcean」だが、新たな規格の策定によってLPWAネットワークとしても利用可能になっている。今後の展開によっては、環境発電によるIoTをより広範囲に適用できるかもしれない。
今回ご紹介する「EnOcean」は、一応分類としてはLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークに属する通信方式ということになるのだろうが、実態としては通信方式というよりはエコシステムというか、インフラに近い。EnOceanが実現するのは、バッテリーレスの短距離無線ネットワークである。過去にもいくつか記事として取り上げられたこともあるから※1)、※2)、※3)、既にご存じの読者もおられるかと思う。
※1)関連記事:環境発電で照明を制御、電源と配線が不要な「EnOceanスイッチ」
※2)関連記事:電池いらず、環境発電EnOceanが農業のIT化を支える
※3)関連記事:住宅をIoTでスマートハウスに、電力の使用状況を無線で収集・管理
EnOceanは2001年にドイツで創業されたベンチャーである。母体はドイツのシーメンス(Siemens)であり、EnOceanのコア技術はシーメンスの中央研究所で開発されたものだ。ただ同社自身ではその研究成果を利用する見込みが薄いということで、外部にこれを切り出してビジネスとしたものである。
EnOceanの主な特徴は2つある。実用レベルとなる環境発電(エネルギーハーベスティング)技術と、これを利用した「超低消費電力」と「超高効率」の無線通信技術である。
まず前者に関しては、EnOcean自身は電力源としてモーション(Motion)/光(Light)/温度(Temperature)の3つを挙げている。モーションは動きであり、EnOceanは直線運動を利用して発電を行う「ECO 200」というモジュールを提供している。このモジュールはスイッチなどに組み込むことで、「スイッチを押す」という動作で発電を行える。1回の押下に必要な力は2.7〜3.9Nで、これにより120〜270μJ(2V出力時)の出力が得られる。これがちょうど1回分の送信に必要なエネルギーになっている。同様に光では、13mm×35mmの太陽光セルを利用し、屋内の200lx(ルクス)の照度の環境があれば15分ごとに定期的な送信ができるとする。最後の温度だが、これは温度差を利用した発電方式である。同社の「ET 310」というDC-DCコンバーターを使うと、2℃の温度差で3Vの生成が可能であり、7℃の温度差があれば100μW程度の電力を生成できるとする。
一方、後者の「超高効率」については、環境発電で得られる電力との関係もあって利用可能な電力量は1mW・secに満たない。この電力量で、実用的な距離(屋内で最大10m、屋外の見通し距離で300m)の通信を可能にしたのが同社の通信技術である。基本的な仕組みは以下の通りだ。
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