ちなみにこのままだとLPWAネットワークには含まれないと思われるかもしれないが、2017年に「EnOcean Long Range」という規格が追加されたことで状況は変わった。
これは送信出力を10mW(EnOcean自身は1mW)に高めることにより、到達距離を都市部で数百m、郊外で数kmまで伸ばした規格だ。もちろん、これだと消費電力そのものは増えるが、データレートを1.25kbpsまで落とすことで対応している。ただし、屋外設置の場合に、やや大規模な電源設備(もう少し大きな太陽光パネルとか、ちょっとした風力発電装置に、据え置き型バッテリーを組み合わせるなど)を用意すれば、相変わらず外部電源無しでの運用が可能となる。
さらに、途中にやはり環境発電を利用したリピーターを設置するなどの策を取れば、到達距離を伸ばすことができる。例えば国内だと、サイミックスとJAふくしまが共同で、数十km2の範囲に約40台のセンサーノードを設置し、これらをEnOceanで接続するという商用運用を行っている(図1)。
さてEnOceanが面白いのは、EnOceanの独自の部分と、後述するEnOcean Allianceで標準化されている部分が混在しているところだろうか。先ほども書いた通り、EnOceanの無線規格そのものはISO/IEC:14543-3-10に準拠しているため、一応誰でもEnOceanに互換の無線モジュールを開発することはできる。
ただし現時点では、EnOcean自身が提供する通信モジュール以外の製品が存在しないようで、その意味ではSigFoxとかWi-SUNと良く似たビジネスモデルである。EnOcean自身が定めるのは、あくまでデータ交換を行うところまで。ISO/IEC:14543-3-10は、OSI(Open Systems Interconnection)の7階層参照モデルで言うところの第3層までしかサポートしていないので、その上位層に関しては何も規定していない。
ここを定めるのがEnOceanが設立したEnOcean Allianceである。プロモーターには、EnOcean以外にドイツのBSC Computer、米国のDigital Concepts、ハネウェル(Honeywell)、IBM、英国のPressac Communications、ローム、フランスのVertuoz by engie、オーストリアのViCOSの8社が並び、正会員は176社、準会員には210社が名前を連ねている。日本の企業も結構多く(ロームもそうだが、アルプス電気やNTT東日本、村田製作所といった電機/通信メーカーだけでなく、LIXILや東レなど住宅関連メーカーも正会員となっている)、特にプロモーターであるロームは自社でEnOcean関連製品Webサイトを用意するなど即座にキットが購入できる充実振りである。
EnOcean AllianceではID(Manufacturer ID)の割り振りとか、さまざまなユースケースに向けたプロファイルの策定などを担っている。現在プロファイルとしては、Generic Profiles(Version 1.0)の他、Equipment Profiles(Version 2.6.8)とRemote Management(Version 2.6)が策定されており、Remote Commissioning(自動で接続可能なデバイスを検索、それぞれのプロファイルを収集して、これを利用して制御できるようにする仕組み)の策定作業を行っている最中である。
EnOcean Long Rangeは、それこそ農業とかインフラ監視などの目的に利用され始めているが、オリジナルのEnOceanは主に建物内部で使われるケースが多い。EnOcean Allianceもビルディングオートメーション(BA)とスマートホーム、それとIoT(モノのインターネット)の3つを主要な市場と定めており、一例として、オフィス管理(図2)やスマートホーム(図3)などを例にとっている。これらの市場では複数社の製品が混在することは珍しくないので、相互運用性の確保は重要な課題であり、これをEnOcean Allianceが担うというわけだ。
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