車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。最終回となる今回は、アクチュエーター故障の中からインジェクターとスロットルアクチュエーターのテストを紹介します。
前回に引き続きHILSを使ってECUのテストを行います。今回は、アクチュエーター故障の中からインジェクターとスロットルアクチュエーターのテストを紹介します。あまり一般的ではないかもしれませんが、アクチュエーター故障をHILSで実現する一例を示したいと思います。
インジェクター故障について考えます。インジェクターは、連載第5回の図4のように燃料通路を開閉するバルブとバルブを駆動するソレノイドおよび燃料を噴射するノズルからなります。ここで考えられる故障を表1に示します。
No. | 故障部位 | 故障項目 | 故障状態 |
---|---|---|---|
(1) | ソレノイドコイル・配線 | 断線 | バルブが開かなくなり、燃料噴射しない |
(2) | ショート | 同上 | |
(3) | インジェクターバルブ | バルブ不作動 | 同上 |
燃料流路詰まり | 燃料の流れが悪くなり、規定量を噴射しくなる | ||
(4) | スプリング折損 | 燃料が常に漏れ出し、燃料供給過剰になる | |
表1 インジェクターの故障 |
本編エンジンは、吸気枝管に気筒ごとのインジェクターを想定しています(連載第5回の図1)ので、4気筒エンジンのいずれかの気筒で独立のインジェクターに故障を生じると、その気筒のトルク発生が失われます。
#1気筒のインジェクターに表1(1)のソレノイドコイルに断線故障が生じた場合、その瞬間から#1気筒の出力トルクは0Nmとなり、その他の気筒は、それまでと変化なくトルクを発生します。
インジェクターとHILSインタフェースは、連載第4回の図5のような回路(疑似負荷B)となっています。インジェクターコイル断線をHILSインタフェース回路で実現するには、図1のように疑似負荷回路に非通電時オンのリレーを挿入して断線時にコイルに通電してオフにします。リレーを使わずに、HILSとECU間のハーネスを手作業で回路を遮断することでも断線を実現できます。
断線によるエンジンの挙動への影響は、プラントモデルを故障状態のモデルに切り替えることによって実現します。プラントモデルが物理モデル(連載第5回の図2)であれば、モデルの#1気筒のインジェクターのソレノイドが通電されても燃料を噴射しないようにすれば実現できます。結果として#1気筒のトルク0Nmが実現します。
統計モデルの場合の故障状態モデルでは、4気筒分の図示トルクT_indが1気筒分減少して4分の3になるとして、#1気筒故障時エンジントルクT_failを以下の式から計算します。
具体的には、連載第7回の図5におけるトルク発生のエンジンモデルを図2のように変更して正常時トルク15Nmに対して、故障時トルク9.25Nmを得ます。
テストを行うには、正常時のトルクとインジェクター故障のトルクとを切替可能なプラントモデルを適用します。図3のユーザーインタフェースで#1インジェクターを選択しておいて、断線SWをオンにします。HILS内部のロジックは、断線SWオンに連動して#1インジェクター疑似負荷を遮断します。
その結果、HILS測定回路は#1インジェクターのパルスを検出できなくなり、プラントモデルはトルク出力を正常値Toutから故障時トルクTfailに切り替えて低下させます。
エンジンECUは、インジェクター回路への出力状態の変化と、プラントモデルのトルク減少による回転数の変化を検出します。故障対策ロジックがうまく働いて、トルクを回復して元の回転数を保持する場合や、故障対策ロジックが働かずに回転数が低下してしまう場合などいろいろな変化が生じるでしょう。この挙動の変化を観察・測定して、制御設計要件に適合しているか否かを検証することが、テストのポイントとなります。
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