スロットルアクチュエーターは、スロットルバルブ、スロットル駆動機構、スロットル駆動モーターからなります。連載第4回の図7のモーターとして、2極6スロットのブラシ付きDCモーターを想定してみます。ここで考えられる故障を表2に示します。
No. | 故障部位 | 故障項目 | 故障状態 |
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(1) | 配線 | 断線 | 車両ハーネス、コネクターやモーター内部結線で、出力回路断線、モーター不作動 |
(2) | モーター | コイル断線 | モーター不作動 |
モータートルク低下、トルク変動 | |||
(3) | コイルショート | モーター不作動 | |
モータートルク低下、トルク変動 | |||
(4) | 軸受摩耗 | モータートルク低下、不作動 | |
(5) | 磁力低下 | モータートルク低下 | |
(6) | スロットル駆動機構 | 減速ギヤ損傷 | ギヤ摩耗や損傷によりトルク低下、トルク変動 |
(7) | スロットルバルブ | 異物の挟み込みなどで全閉や全開ができなくなる | |
(8) | センサー連結部 | センサーとのジョイントが緩み、スロットル開度とセンサー出力が一致しなくなる | |
表2 スロットルアクチュエーターの故障 |
(1)〜(3)は電気的な故障で、回路の断線や抵抗値などの電気的な変化とこれに伴う回転停止やトルクの低下という機械的な影響が生じます。ECUは、出力回路の端子電圧や電流値を測ることによって故障診断を行うことが可能です。一方、(4)〜(8)は、機械的な部分の故障で、ECUが直接故障診断することは出来ません。
表2の(2)のコイル断線について考えてみましょう。図4に正常時とコイル断線時のモーターコイルに流れる電流を示します。ここで、整流子から供給される電流は、2系統の直列接続を流れて6組のコイルに電磁力を発生してモーター軸トルクを生じます。1組のコイルに断線が生じると、直列接続1系統が断線して片方の系統にしか電流が流れなくなります。図4の右図は、②のコイルが断線して、電流経路④、③、②の電流が遮断され、⑤、⑥、①だけに電流が流れる様子を示しています。
モーターの疑似負荷については、連載第4回の図7の疑似負荷抵抗を2倍すれば、故障状態を実現できますが、HILSの疑似負荷抵抗の値を変更する工夫が必要となります。また、抵抗素子は実モーターのコイルように逆起電力を生じないので、精確にモーターの電気負荷を疑似するものではありません。ECUのモーター出力回路の故障検出方法に対応する場合に限って、この手法による断線状態のテストが可能です。
コイル断線時のモーターの挙動を考えると④、③、②の電磁力が失われ、トルクもそれに応じて半分になってしまいます。回転子が1回転する間に断線コイル②の位置は変化しますが、断線コイル②が属する側の電流経路1系統の遮断されている状態は継続しますので、回転角にかかわらずトルクは正常時の2分の1となります。
断線箇所が2カ所になると、2カ所目の位置と回転子の回転角(図4の状態を基準0度として、左回りに0〜360度の値とする)によって発生トルクが変化します。正常コイルと断線コイルとを模式図(図4の整流子間の電流経路を簡略化)を使ってまとめると、表3に示すように回転角が60度回転するごとに変化します。
隣り合ったコイル2組が断線する場合の平均トルクは、正常時の3分の1に減少します。1つ隔てたコイル2組が断線する場合は、平均トルクが6分の1に減少します。この両ケースでは、1回転する中で2回、トルクがゼロと正常値の2分の1の間で変化して振動を生じます。相対するコイルが断線するとトルクがゼロになってしまいます。
疑似負荷抵抗についても同様に、1回転の中で2回、疑似負荷抵抗が2倍状態と断線状態の変化を繰り返すことになります。抵抗値をモーターの回転角に合わせて変化させることが求められる特殊な疑似負荷抵抗回路が必要となり、HILSの中でもかなり複雑な仕組みとなります。
エンジン実機でこのような故障が生じると、連載第6回の図5で示したスロットルバルブの特性は、トルクの減少によって応答が遅くなり図5に示すようになります。最終的には、エンジン回転数の変化や、排気成分への影響が考えられます。
ただし、本編のプラントモデルは、エンジントルクをインジェクター出力だけで決定していますので、スロットルが故障してもHILSのエンジンプラントの挙動は変化しません(ここで、スロットル故障でエンジンプラント自体の挙動変化がテストに必要であれば、プラントモデルを作り直すことが求められます)。一方プラントモデルの挙動が変化しないままでも、ECUがスロットルモーターの断線故障を検出して、例えばインジェクター出力を停止するような制御をしたら、その結果システム全体としてはエンジンが停止するということになります。
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