日本電機工業会が開催した「製造業2030シンポジウム」で、経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐の安藤尚貴氏が「Connected Industries推進に向けた我が国製造業の課題と今後の取り組み」について講演した。
日本電機工業会(JEMA)では、ファクトリーオートメーション(FA)に関わる工業会として、IoT(モノのインターネット)による製造業の革新に対して、関係者に対して製造業の将来像を示し、今後重要となる対応策について検討している。その一環として2017年5月に提言書「2016年度版 製造業2030」を発表(※1)しており、その周知を図る目的で、2017年9月28日にシンポジウムを開催した。
(※1)関連記事:IoTが変革する製造業の2030年、JEMAが「製造業2030」最新版を提言
本稿では、その中で経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐の安藤尚貴氏の講演「Connected Industries推進に向けた我が国製造業の課題と今後の取り組み」の内容を紹介する。
経済産業省が2016年末に実施した調査によると、現在の国内製造業で顕著にみられるのが、人材不足の問題である。調査した企業の内、8割が課題だと認識しており、約2割がビジネスにも影響しているとする。この人材不足対策として、現在は半分以上が「定年延長などによるベテラン人材の活用」という一時的な対応策で乗り切っている状況である。ただ、今後に向けては「抜本的な手法の転換」が必要になる。
これらの状況を反映し、今後の対策としては「ITの活用などによる効率化」「ロボットなどの導入による省力化」に取り組むとした回答が合計4割を超えた。今後はITやロボットを活用した合理化・省力化が必須となる見込みである。
また、生産プロセスなどのデータ収集・活用については、中小企業で3分の2の企業が製造現場で何らかのデータを収集しており、この割合は前年に比べて26%増加した。ただ、生産工程の見える化やトレーサビリティー管理など、収集したデータの具体的な活用はこれからのようで、国としてもこのデータの活用について積極的に支援をしていく方向だという。
製造現場から収集されたデータ(リアルデータ)について、安藤氏は「バーチャルデータに比べてリアルデータは従来整備された形で蓄積されておらず活用できる量は少ないものの、今後莫大なものになる見込みだ。さらに1つ1つの価値が非常に重要なものとなり、このデータの利活用を進めていくことが大きな意味を生む」と述べる。そのため「日本の強みや機会を生かせる戦略分野でリアルデータのプラットフォームを創出・発展させることができれば、世界の課題解決と日本の経済成長にもつながる可能性がある」と安藤氏は強調する。
製造業のバリューチェーンは今後「製造現場・ハードウェア」「ソリューション」「IT基盤・ソフトウェア」の3つの層に分類されるようになるという。従来、製造業はまさにハードウェアを作ることに特化し製造現場だけを意識していればよかった。しかし、IoTなどの発展によりハードウェア以外の領域で価値を生み出すことが求められている。特に今後の競争の主戦場になり、利益の源泉となるだろうとみられているのが「ソリューション層」である。そのためモノづくり企業のソリューション分野への取り組みが進んでいる。
「日本のモノづくりの変化の方向性についてまとめると、4つの変化の方向性が存在する」と安藤氏は強調する。4つの変化の方向性は以下の通りである。
そうした中で、安藤氏は顧客基点による全体最適のための「デザイン思考」「システム思考」の重要性を強調。「さまざまなモノを作るときに、顧客の要求に加えて、設計、生産の各部門の専門性を超えてプロダクツをうまく設計できる人材の重要性が高まっている」(安藤氏)と指摘した。
さらに人材不足対応については、単純に現場の人間に代替だけでITやロボットなどを活用するのではなく「人間が付加価値の高い仕事に移行することを促すことが重要だ」と安藤氏は述べる。生産性の向上や労働時間短縮による働き方改革につなげるような取り組みが重要とする。また、IoTによる現場の見える化を通して、日本が得意とする「カイゼン」活動の一層の加速実現も可能としている。さらに、現場だけでなくホワイトカラーの業務、特に間接部門業務の生産性向上を目指した取り組みも重要であることを強調した。
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