NEDOと慶應義塾大学は、身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」の開発に成功した。「世界初」とする力触覚に応じた制御により、力加減を調節し多様な作業を柔軟に行えることが最大の特徴。「固くて柔らかい」という矛盾した制御が必要な力触覚はどのように実現されたのか。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と慶應義塾大学は2017年9月28日、同大学矢上キャンパス(横浜市港北区)で会見を開き、身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」の開発に成功したと発表した。General Purpose Armの技術は、シブヤ精機が開発中の果物の選別を行う選果ロボットに採用されている他、約30社の企業との間で共同研究開発が進んでいるという。「CEATEC JAPAN 2017」(2017年10月3〜6日、幕張メッセ)では、General Purpose Armや企業との共同研究成果などを披露する予定だ。
General Purpose Armの最大の特徴は、人間と同じように、力触覚(ハプティクス)に応じて力加減を調節し多様な作業を柔軟にこなせることだ。研究開発の中心メンバーである慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 助教の野崎貴裕氏は「既存のロボットは、ドリルなどを用いた切削のための位置制御から発展したこともあり、極めて高い制御剛性を実現している。しかし、人間が行っているような作業を代わりに行うには、正確に位置決めしてそこから動かさないだけでなく、人間が感じている力触覚に合わせて柔軟に制御する環境適応性が必要だ」と語る。
例えば、イチゴのような柔らかいものをつまむ作業の場合、位置制御だけを行う従来のロボットは、イチゴをつかめなかったり、逆にイチゴをつぶしてしまったりしてしまう。位置制御に力触覚が加われば、接触による反力から力を制御してイチゴをつぶすことなくつかむことができる。
しかし、力制御と位置制御は制御の特性が相反している。「力制御は柔らかい制御、位置制御は固い制御と言ってもいい。力触覚を実現するということは、固くて柔らかいという矛盾した制御に他ならない。1940年代から始まった力触覚の70年以上の研究の歴史において、これまで成功例はなかった」(野崎氏)という。
General Purpose Armでは、この矛盾を解決する革新的理論「加速度規範双方向制御方式」を採用することで、力触覚を実現したとする。この理論は、アクチュエーターであるモーターの回転(速度)とトルク(力)を加速度次元で統合するというものだ。野崎氏は「力触覚の研究には疑似的な錯覚を利用するなどさまざまな手法があるが、われわれの研究成果は産業用途で利用可能であることを含めて高精度力触覚(リアルハプティクス)技術と呼んでいる」と強調する。
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