同社は2014年、約96億円を投じて「衛星インテグレーションセンター」を新設、同時に組み立て可能な衛星数をそれまでの4機から8機に倍増させた。しかし、生産能力を強化しても、それだけ受注が増えなければ、設備投資が無駄になってしまう。リスクを伴う、攻めた経営判断だといえるだろう。
この判断の背景にあるのは、国の政策転換である。日本の宇宙政策は長らく、研究開発が中心になっていたが、2008年制定の宇宙基本法や2009年策定の宇宙基本計画により、利用ニーズ重視へとシフト。その基盤となる宇宙産業の競争力強化や、海外需要を獲得するための政府支援なども盛り込まれた。
経産省のASNAROプロジェクトは、まさにこれを具体化したものだ。ASNARO-1/2で、光学衛星とレーダー衛星の技術実証を行い、今後の衛星輸出に弾みをつけるのが狙いである。
ただ、世界への進出は、そう簡単なことではない。商業衛星の市場では、欧米のメーカーが大きなシェアを占めており、日本の存在感は大きくない。日本のもう1社の大手衛星メーカーである三菱電機には、最大6トンほどの大型衛星に対応する標準衛星バス「DS2000」がある。既にシンガポール/台湾向け、トルコ向け、カタール向けの衛星を受注した実績があるものの、なかなか食い込めていないのが実情だ。
大型衛星の製造には、100億円単位の巨額のコストが掛かる。発注者にとっては、もちろん衛星の価格や性能も重要なものの、これだけ高価だと、最も重視されるのは信頼性である。となると、有利なのは既に多数の実績がある欧米メーカーで、どうしても新規参入者には不利な構図になってしまう。
そこで、NECが注目したのが小型衛星市場である。エレクトロニクスの進歩により、さまざまな機器が高性能化/小型化した結果、小型衛星の性能が向上。ASNAROのような小型衛星でも、サブメーター級の分解能を実現できるようになってきた。また小型衛星の価格は安いので、新興国でも買いやすい。新規ユーザーの増加が期待できる。
しかしエレクトロニクスの進歩の恩恵を受けるのは小型衛星だけではない。小型衛星の下には、重さ100kg以下程度の超小型衛星と呼ばれるカテゴリーがあり、こちらの発達も目覚ましい。小型衛星でもまだ高いと感じる新興国や、数m程度の分解能で十分な需要は、小型衛星を通り越して超小型衛星に流れる可能性もある。小型衛星の需要が実際にどの程度伸びるかは、やや不透明だ。
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