他社がまねできない技術には、工作機械メーカーの協力が不可欠――。「第28回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2016)」の特別講演で、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」やエコカー戦略を支える生産技術について、トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー ユニット生産技術領域 常務理事の近藤禎人氏が語った。
他社がまねできない技術には、工作機械メーカーの協力が不可欠――。「第28回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2016)」(2016年11月17〜22日、東京ビッグサイト)の特別講演に、トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー ユニット生産技術領域 常務理事の近藤禎人氏が登壇。
トヨタ自動車の新しいモノづくり「TNGA(Toyota New Global Architecture)」やエコカー戦略を支える生産技術について紹介した。
TNGAは部品の共用化やモジュール設計により、原価を低減して“もっといいクルマづくり”に再投資するサイクルを構築することを目指しており、2015年12月に発表した「プリウス」の新モデルから取り入れられている。新型プリウスは低重心化を図ったTNGAプラットフォームにより、運動性能や乗り心地を向上させた。
パワートレーンカンパニーに所属する近藤氏は、TNGAに基づいたエンジンのモジュール設計を紹介した。TNGAエンジンは、基本骨格と地域ニーズに合わせて進化させる部分に分けている。全てのエンジンに共通する骨格の素となる部分を磨きあげた上で、過給や可変動弁系といった技術を組み合わせ、新しい燃焼コンセプトを取り入れていく考えだ。
TNGAエンジンは、燃焼のモジュール化を図る。1シリンダーあたりの容積を定め、気筒数をかけることでエンジンの排気量を決める。例えば、シリンダーの容積が500ccの場合、3気筒なら排気量1.5l(リットル)に、4気筒なら排気量2.0lにする形でエンジンを作り分ける。シリンダー単位で吸気の流れの最適化を図っており、どの排気量のエンジンも燃焼効率を高める。この他にも、ボアストローク比の最適化や、軽量化、低フリクション化も基本骨格と位置付け、基本性能として磨きあげる。
これまで、トヨタ自動車のエンジンのラインアップは、設計が共通化されていなかった。エンジンの機種ごとに異なる主査がばらばらに開発しており、車両ごとの適合開発にも時間を要していたという。これを、TNGAでは、エンジンの機種をまたいで同時に開発する。補機部品の配置も含めたエンジンの構造の共通化を図る。開発の効率化や、量産効果を生み出すことにつながるという。また、設計の初期段階で機械加工や組み付けの基準を統一し、生産ラインの汎用性を高める。このような共通化による開発効率向上がTNGAのコアになるとしている。
トヨタ自動車の従来のパワートレイン生産ラインは、大量生産を前提とした粗形材加工、専用工程の多い機械加工、組み付けといった工程で構成されていた。リードタイムが長くなる生産ラインでは、TNGAの狙いが生かせない。TNGAの設計思想にのっとった生産ラインとするには、粗形材加工の小規模化、機械加工の工程集約、組み付けの汎用ライン化が課題となった。目標は、リードタイム半減と投資を4割減とすることだ。
粗形材加工の改善の例として、ダイカスト鋳造を紹介した。従来は重厚長大な溶鉱炉でアルミニウムのインゴットを溶解し、溶湯を工場に運搬/保持し、さらに鋳造設備の近くまで運ぶという工程となっていた。
これを、急速加熱溶解炉を鋳造設備にじか付けすることで大幅に時間や手間を短縮することに成功した。急速加熱溶解炉は、高周波でアルミのインゴットを短時間で溶かすものだ。この変更により、リードタイムは4分の1に、投資は4割抑えられた。
工程が長く、専用設備が多用されてきた駆動系の歯車部品の加工は、ヘリカルブローチ加工からマシニングセンタによるスカイビング加工に切り替えた。これにより、旋削/穴あけ/ブローチ/歯切りといった専用設備で行っていた加工を1台の設備でこなせるため、工程を大幅に集約できたという。リードタイムを2割短縮するとともに、設備投資を4割削減した。2017年1月から立ち上がる“駆動系TNGA”の生産ラインで、こうした設備を採用している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.