東北大学は、「酸化ストレス」が腎臓病を悪化させ、慢性腎臓病の発症・進行につながることを明らかにした。マウスによる実験では、急性腎障害の発生から5日目までに酸化ストレスへの抵抗性を高める薬を飲むことで、腎臓病の進行を抑えられた。
東北大学は2016年10月25日、腎臓が障害を受けると発生する「酸化ストレス」が、腎臓病を悪化させ、慢性腎臓病の発症・進行につながることを明らかにしたと発表した。同大学の祢津昌広助教(東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門)、同大学大学院医学系研究科の相馬友和研究員(米ノースウエスタン大学)らのグループによるもので、成果は同月24日に、国際腎臓学会誌「Kidney International」のオンライン版で公開された。
活性酸素種など、細胞を損傷させる分子が蓄積した状態を「酸化ストレス」と呼ぶ。急性腎障害では、酸化ストレスが大量に発生し、腎臓を徐々に障害すると指摘されている。また、急性腎障害に高血圧や糖尿病などの慢性疾患を伴う場合、徐々に進行して慢性腎臓病に至る。同研究グループは、急性腎障害の段階で酸化ストレスを減らすことができれば、慢性腎臓病への進行を予防できるのではないかと考え、マウスによる実験を試みた。
マウスを手術して急性腎障害を起こすと、2週間で慢性腎臓病のような病態となる。同研究グループは、酸化ストレスを消去する能力の高い遺伝子改変マウスでは、同様の手術をしても慢性腎臓病の病態が軽度であることを発見した。
次に、マウスに対し、急性腎障害を生じた後1〜5日目の間に、酸化ストレスへの抵抗性を高める薬剤を飲ませた。それにより、2週間後の慢性腎臓病への進行が抑えられることが分かった。一方、急性腎障害を発症してから7日目以降に薬を飲ませても、慢性腎臓病の病態は改善されなかった。つまり、急性腎障害となった後の早い時期に酸化ストレスへの抵抗性を高めることで、慢性腎臓病への進行を抑制できることが示された。
この成果は、慢性腎臓病の発症・進行を抑えるための新たな治療法の開発につながると期待される。また、同研究でマウスに投与した薬剤と同様の薬剤について、既に腎臓病に対する臨床試験が始まっている。
慢性腎臓病は、日本では成人の8人に1人が発症し、心臓病や脳卒中につながる疾患だが、これまで特効薬は開発されていなかった。現在、血液透析などの「腎代替療法」が必要で、医療費の高騰に大きく影響している。
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