今だから知りたい、トヨタが示す“円高に負けないモノづくり”の作り方:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
そもそもの円高に対する考え方について「グローバル展開を行う日本企業にとっての円高は、日本のコストと原価がグローバルで相対的に見た時に高くなるという現象である」と伊地知氏は定義する。
トヨタ自動車 取締役副社長の伊地知隆彦氏
そのためとり得る施策としては「原価を下げてグローバルで戦う体制を作るということが必要になる。しかし、そのためには時間が必要で、すぐには結果は出せない」と伊地知氏は述べる。今回の決算での原価低減についても、仕入先と共同でどういうコストが下げられるか話し合い、新たな運営体制を作りこみ、実行していくことができたために原価が下げられたという背景がある。これは企業体としての継続的な力にはつながるが、一朝一夕でできることではない。
そこで、その原価低減を実現するまでの間、どういう対策をするのかというのが重要になる。「ここが営業の出番である」と伊地知氏は述べる。
「即効性のある円高対策としてとり得る策の1つ目は、コストと原価の影響が受けないビジネスを大きくするということがある。具体的には国内の販売を伸ばすことである」と伊地知氏は語る。2つ目は、利益率の高い製品を売るということである。「製品ミックスを高めるというように表現しているが、より利益率の高い製品を中心に販売戦略を立てることで利益率を改善することができる」(伊地知氏)。そして3つ目が、車両価格の引き上げである。
「これらの3つの即効性のある取り組みを行いつつ、原価低減の結果が出るのを待つという2段階の取り組みがトヨタが行ってきた円高への対策である」と伊地知氏は述べる。
円高対策といえばすぐに工場の海外移転という話なども出るが「当然海外生産なども検討はするが、すぐに移転させるというのは生産品質面なども含めて無理だ。まずは現地調達品を拡大するというような取り組みを進めて原価低減を図り、その上で可能であれば現地生産に踏み切るというような順番になる」と伊地知氏は海外移転についての考えも述べる。
例えば、日本で販売していない「レクサスES」は日本での生産を米国のケンタッキー州に移したが「検討を開始したのは前回の超円高の時期。実際の生産は2016年に開始した。それくらい時間が必要なことである」と伊地知氏は述べている。
「モノづくり最前線レポート」のバックナンバー
- トヨタがEV投入を表明し全方位化、ただ「究極のエコカーはやはりFCV」
トヨタ自動車は2016年11月8日に開催した2017年3月期第2四半期決算会見の場で、あらためてエコカー戦略を表明。従来主力と位置付けてきた、HVやPHV、FCVとともにEVもラインアップに加え全方位で展開していく方針を示した。
- 豊田章男社長が謎かけ「十角形の角から引ける対角線の本数は」
トヨタ自動車は、2016年3月期(2015年度)決算を発表した。会見の中で同社 社長の豊田章男氏は「2017年3月期(2016年度)は、われわれの意思の真贋が試される年になる」と説明。為替の“追い風”が止み潮目が変わったことを好機と捉え、「大きくなりすぎたトヨタ」(豊田氏)の仕事の進め方を変えていくことをあらためて宣言した。
- トヨタが過去最高益達成へ、1兆円の為替差損を吸収するカイゼンが原動力に
トヨタ自動車は2014年3月期第3四半期決算を発表。2014年3月期通期業績見通しを上方修正したことにより、過去最高だった2008年3月期の営業利益2兆2703億円を超える見通しとなったことを明らかにした。
- 自動車部品メーカーに求められる“延長線上ではない改革”
企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回は自動車OEMの動きを背景に、自動車部品メーカーが抱える問題点について解説する。
- 生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?
海外工場立ち上げに失敗するケースは約3分の1にもおよび、その多くの理由が「立地」によるものだという。しかし、製品開発やサプライチェーンマネジメントについての議論は数多くあるが、なぜか「工場立地論」はほとんど聞くことがない。そこで本稿では、長年生産管理を追求してきた筆者が海外展開における「工場立地」の基準について解説する。
- 外資系製造業が国内生産に踏み切る理由――3Mの防じんマスクの場合
製造業にとって日本国内で生産を行うには一定のリスクが伴う。特に、外資系の製造業であれば、新興国で低コストで生産し、それを輸入販売すればよいので、国内で新たに生産を始める必然性は低い。しかしこのほど、グローバル企業・3Mの日本法人であるスリーエム ジャパンは、防じんマスクの国内生産に踏み切った。その理由とは。
- 超円高・デジタル化が生んだ“転機”、会津から世界を見据えるシグマのモノ作り
2005年ごろ、一度シグマの会津工場を訪れたことがある。当時、会津を拠点にした“一極集中の垂直統合”という戦略を取るシグマの姿勢に、筆者はひどく驚かされた。――あれから6年が経過し、筆者は再びシグマの山木社長に話を伺う機会を得た。シグマがこれまで歩んできた道のり、そして、その根底にある思いとは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.