電球の表面温度を超えて温度が上がり続ける「見えない熱」輻射熱と火災の危険【緊急寄稿】モノづくりと安全(1/2 ページ)

「東京デザインウィーク」内にあった木製の展示物で火災が発生し、死亡事故へとつながった。このような事故が再度起こらぬよう注意喚起として、かつてFablab鎌倉でも活動した早稲田治慶氏が炎熱と輻射熱の違いやその危険性について解説する。

» 2016年11月09日 10時00分 公開

 2016年11月6日、東京・明治神宮外苑で開催していた「東京デザインウィーク」内にあった木製の展示物で火災が発生し、死亡事故へとつながりました。本稿では、製造業の人でも見落としがちな、炎熱と輻射熱の違いやその危険性について説明します。

輻射熱が怖い理由

 一口に熱といっても、さまざまな熱があります。

 「炎熱」は、火炎ガスそのものの高温による熱です。赤い炎は目に見え、触れれば気体熱伝導で即座に伝わり、あっという間にやけどし、燃え移ります。なので炎の熱は分かりやすく、危険にも気を付けやすいです。この熱は「自分と同じ温度に上げる熱」です

 もう1つ、気を付けることが難しい、“見えない熱”である「輻射熱」があります。輻射熱は、透明の裸電球の中でまぶしく光るフィラメントの熱や、赤く光る電気ヒーターの熱です。

 電気ヒーターの赤い光そのものは、単なる発熱の副産物です。熱の本体の赤外線は目に見えず、浴びてもすぐには温まるだけで、熱くなったら手を引けば即座にやけどをすることもありません。

 輻射熱は、「元の温度にかかわらず、今より温度を上げる熱」です。炎熱が火炎ガスの温度以上に触れた相手の温度を上げることはないのに対し、輻射熱は時間をかけて電球表面よりも高い温度を、輻射を浴びた対象にもたらします。子どもの時、赤く光る石英管ヒーターでぬれた靴下を乾かそうとして焦がしてしまった経験がある人は少なくないのではないでしょうか。

 より危険予知して気を付けなければいけないのは、実は見える炎熱より見えない輻射熱なのです。即座には燃えないものを温め続けて乾燥させ、乾燥しきって水分の蒸発による温度低下がなくなったら、発火するまで温度を上げ続けてしまいます。

「引火」と「発火」の違いと火災

 「引火」とは、わずかでも火があれば、それこそ静電気火花でも着火することです。物質の種類ごとに、ある温度で引火するようになる「引火点」があります。引火しやすいのは、ガソリンのように、室温でも気化しやすい揮発性物質です。

 「発火」とは、引火と違い、全く周りに火がなくても、ある温度を超えると火が発生することで、この温度を「発火点」と言います。輻射熱は火がないので、輻射熱による火災が発生する場合は発火によるものになります。

「最初は触っても熱くなかったのに、目を離していたら発火した」

(蓄熱―放熱)×時間>発火点温度

 火は最初から熱いですし、燃える場合はすぐ燃え広がります。しかし、防げなかった火災の多くは、最初は手で触れるほどの温度から始まっています。

 空間に対して放熱する方が蓄熱よりもわずかでも少なければ、長い時間をかけて温度は上がっていき、ついには発火点を超え、火のないところから火が出ます。むしろゆっくり温度が上がる方が、人間が見ている間には発火しないので見過ごしやすいのです。

 火災は、蓄熱より放熱の方がわずかに少ない条件で発生します。例えば、ACアダプターを座布団の下敷きにした状態で使ったり、長い延長コードを束ねてビニール袋に入れたまま、頭と尻尾だけ袋から出して使ったりなど、ちょっとした面倒や横着が原因になります。また、それらは熱源と発火する場所が一致していて、なおかつ接触伝熱なので“危ない”感じが見た目にも分かりやすいのです。

 輻射熱で起きる場合、熱源と接していない部分が過熱します。輻射熱源に手をかざしても温かいだけです。一方、見た目に何の異常もない、輻射熱源付近の部分が、いつの間にか触ったらやけどするほどの高温になるのです。

 さらには、空気に対して若干は放熱している表面でなく、熱のたまった内側が先に燃え出し、外側に火が出てきたときには手遅れになっている場合があります。「熱が見えない」というのはそれほど厄介なことなのです。

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