トヨタはニュルブルクリンクでクルマの何を鍛えた? 「速さ」ではないモータースポーツ(1/2 ページ)

“ニュルブルクリンクで鍛えた”といううたい文句のクルマは珍しくない。しかし、購入者層の大半はニュルブルクリンクほどの過酷なコースは走らないし、世界で戦うプロドライバーのような運転技術は持っていない。量販車種をレースで鍛える意義について、TOYOTA GAZOO Racingに携わるメンバーが語った。

» 2016年07月11日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 “ニュルブルクリンクで鍛えた”といううたい文句のクルマは珍しくない。トヨタ自動車が2016年8月1日に一部改良して発売するライトウェイトスポーツ「86」の後期型や、年内に日欧で投入する「プリウス」ベースの新型クロスオーバーSUV「C-HR」もそうしたモデルの一部だ。

 しかし、86やC-HRの購入者層の大半はニュルブルクリンクほどの過酷なコースは走らないし、世界で戦うプロドライバーのような運転技術は持っていないだろう。量販車種をなぜレースで鍛えるのか。その意義について、TOYOTA GAZOO Racingに携わるメンバーが語った。

C-HR86 ニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場したC-HR(左)と86(右) (クリックして拡大) 出典:トヨタ自動車

 ニュルブルクリンク24時間耐久レースは、市販モデルをベースにした参戦車両が24時間で走行する距離を競う。コースは1周約20kmで、標高差は300mだ。170カ所を超えるさまざまなコーナーが配されており、路面も荒れている。参戦車両は、排気量やエンジンの改造の有無によってクラス分けされる。

 今回発売する86の後期型は、2014年のニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場した際の「86号車」が手本となっているという。86号車は2013年の参戦車両からエンジンを改良するとともにボディーの剛性を高め、ブリヂストンが同レース専用で新規開発したタイヤを装着した。86号車は排気量1750〜2000ccのSP3クラスで1位を飾った。レーシングカーとしての改造は施さず、ほぼ市販車に近い状態で出場した。

 プリウスベースで、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」を取り入れたC-HRは、2016年のニュルブルクリンク24時間耐久レースに出場し、SP2Tクラスで3位に入賞。ガス欠以外に大きなトラブルもなく周回を重ねた。

レースで勝てるクルマの条件は“速さ”じゃない

TOYOTA GAZOO Racing ドライバーの影山正彦氏 TOYOTA GAZOO Racing ドライバーの影山正彦氏

 レースで活躍した2車種が間もなく市販されるが、単にスポーティーなモデルというわけではないようだ。TOYOTA GAZOO Racing ドライバーの影山正彦氏は「レースに勝つクルマは乗り心地がよく、操縦安定性に優れている」と説明する。

 「たとえ速くても、乗り心地が悪く操縦安定性に欠けるクルマは、プロドライバーが運転していても疲れるし危険だ。(疲れにくく運転しやすいクルマであるという点では)レースでつくったクルマの延長線上に量産モデルがある」(影山氏)。

 繊細な運転操作が長時間にわたって要求されるニュルブルクリンク24時間耐久レースのような過酷な環境であっても運転しやすいクルマであるということは、街乗りやドライブなど一般ドライバーの乗り方であっても疲れにくく運転が楽なクルマとなるだろう。

 仮にプロドライバーがレースで運転しにくいクルマであっても、公道では感じ取れないかもしれない。そこで妥協せずにレースで勝てるクルマを目指すことが、市販モデルでの“もっといいクルマづくり”につながっていくのだろう。

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