「なぜソフトバンクがクルマ?」という社内の疑問の声に対し「自動運転にビジネスチャンスがある」と声を大にして説得したのは、30歳の中堅社員だった。「自動車メーカーやサプライヤとは競合しないが、ソフトバンクグループができることは多い」と語るSBドライブ 社長の佐治友基氏らに話を聞いた。
IT企業が自動運転に期待を寄せる中、ソフトバンクとYahoo!Japan(以下、ヤフー)も動き出した。東京大学発のベンチャー企業、先進モビリティとソフトバンクの合弁で、自動運転を使ったサービスを事業化する新会社「SBドライブ」を立ち上げたのだ(関連記事:ソフトバンクが東大発ベンチャーと自動運転に進出、IT業界の参入が加速)。
「なぜソフトバンクがクルマ?」という社内の疑問の声に対し「自動運転にビジネスチャンスがある」と声を大にして説得したのは、30歳の中堅社員だった。「自動車メーカーやサプライヤとは競合しないが、ソフトバンクグループができることは多い」と語るSBドライブ 社長の佐治友基氏らに、同社設立の背景や目標などについて聞いた。
SBドライブがつくろうとしているのは、自動運転車を利用する環境だ。物流や旅客、公共交通などの事業者や自治体に向けて自動運転車を納入するが、SBドライブが車両を生産するのではない。出資企業の先進モビリティが商用車メーカーと連携して、バスやトラックを自動運転車に“改造”する。車両自体は商用車メーカーが開発/生産するものだ。
SBドライブは現時点では個人が所有する自動運転車はターゲットとしないため、乗用車メーカーとは競合しないという。「商用車は乗用車よりも台数が少ない市場で、商用車メーカーは自動運転にどこまでリソースを割けるか悩んでいる。われわれのような企業が商用車の自動運転に参入することを歓迎してもらっている」(SBドライブ 社長の佐治友基氏)。
また、サプライヤとも食い合いにはならない。「われわれはサプライヤの部品を買う立場で、さまざまなサプライヤと協力したいと考えている。技術開発を担当する先進モビリティも部品をつくるわけではない」(佐治氏)。
「クルマはデバイスの1つだと考えている。われわれが手掛けるのはデバイスに必要な通信技術やサービスだ。デバイスを売って収益を上げることに力は入れない。自動運転車が走るためのサービスで売り上げを立てていく」(同氏)。
SBドライブは、ソフトバンク社内で行われた中長期の事業戦略プレゼン大会がきっかけで生まれた。このプレゼン大会では500件のアイデアが応募され、佐治氏が提案した自動運転の事業化は2位に選ばれた。
「自動車が好きとか、クルマのビジネスをやりたいという発想ではない。ソフトバンクの事業の柱には、ロボット/AI(人工知能)/IoT(Internet of Things、モノのインターネット)がある。IoTについて考えた時、通信すべきものはまずクルマだと考えた。移動体通信はソフトバンクの得意分野で、海外の配車サービスにも投資を積極化している。また、自動運転車は3つの柱にも当てはまる。これだけ可能性があるので、自動運転を事業化したいと上司を説得した」(佐治氏)。
先進モビリティをパートナーとすることで、自動運転車の開発とソフトバンクの通信の強みを生かしたサービスの両方を提供できると考えたという。また、先進モビリティは自動車メーカー出身者がおり、自動車業界や関連省庁とのコミュニケーションが取りやすい。先進モビリティの出資が決定し、起業が承認されてSBドライブの設立に至った。
一方、ヤフーでも以前から自動運転に関心を持っており、「同じことを考えているソフトバンクとヤフーで一緒にやろうということになった」(同氏)。COO(最高執行責任者)の宮田証氏とCTO(最高技術責任者)の須山温人はヤフーから出向している。30歳の佐治氏、36歳の宮田氏、32歳の須山氏がSBドライブを率いる。
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