新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、大阪大学、島津製作所は、3原色の可視光半導体レーザーを用いた光源モジュールの開発成果を発表。ヘッドマウントディスプレイやプロジェクタ、照明、自動車用ヘッドランプなどの製品に搭載し、「ほぼ全ての項目でLEDに対する可視光半導体レーザーの優位が明らかになった」という。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、大阪大学、島津製作所は2016年3月14日、東京都内で会見を開き、3原色の可視光半導体レーザーを用いた光源モジュールの開発成果を発表した。プロジェクタやテレビ、照明の光源に最適な高輝度モデルと、世界最小クラスサイズでウェアラブル端末などに最適な超小型モデルがあり、それぞれ機器搭載による実用化展開を進めていく方針だ。
NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 部長の山崎知巳氏は「可視光半導体レーザーとは、さまざまなアプリケーションで採用を広げているLEDと比べて、大幅な性能向上を見込める次世代の光源デバイスだ。半導体レーザー搭載製品の2030年の世界市場規模は50兆円を超えるという予測もある。この大きなポテンシャルを秘める半導体レーザーは、2014年時点で世界市場の90%を日本企業で占めている。グローバルで競争力の高い半導体レーザーの製品応用を拡大できるよう『クリーンデバイス実装社会実装推進事業』の中で開発を進めてきたが、今回大きな成果を得られた」と語る。
クリーンデバイス実装社会実装推進事業の中で、可視光半導体レーザーに関するプロジェクトの研究開発を主導したのが、大阪大学 光科学センター 副センター長 特任教授の山本和久氏だ。山本氏は「可視光半導体レーザーはLEDの次世代、まさに21世紀の光源だ。既に緑色半導体レーザーの寿命の短さといった問題は解決しており、実用化の要素技術はそろっている。しかし、世の中にその真価が浸透しておらず、応用普及のための整備もできていなかった。今回の開発成果により、その優位性を理解してもらえると考えている」と意気込む。
可視光半導体レーザーは、照明やディスプレイなどの光源として現在採用を広げているLEDと比べてどのような優位性があるのだろうか。
光源デバイスの効率は内部量子効率×取り出し効率で求めることができる。LEDは、内部量子効率が80〜90%と高いものの、光を外部に出す取り出し効率は45%程度にとどまっている。これに対して可視光半導体レーザーは、内部量子効率は約40%だが、取り出し効率は100%に達する。
現時点の光源デバイスの効率ではLEDと可視光半導体レーザーにほとんど差はない。しかし可視光半導体レーザーは、4K放送やスーパーハイビジョンで採用される色域を100%カバーする色再現範囲や、高輝度につながる発光面積の狭さ、高い指向性、偏光利用が可能な点ではLEDを上回っている。
そこでNEDOのプロジェクトでは、可視光半導体レーザーのユースケースを3つに分け、それぞれのユースケースに最適な可視光半導体レーザー光源モジュールを開発。さらに、9つの製品に適用してLEDに対する優位性などを確認した。
3つのユースケースは、メガネ型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やヘッドアップディスプレイ(HUD)のような「走査型レーザー照射」、テレビやプロジェクタなどの「高輝度表示装置」、そして自動車のヘッドランプや業務用照明などの「レーザー照明」である。これらのうち走査型レーザー照射向けに開発した光源モジュールが超小型モデルであり、高輝度表示装置とレーザー照明向けに開発したのが高輝度モデルになる。
また、機器メーカー9社(パナソニック、パイオニア、IDEC、QDレーザ、セイコーエプソン、ホンダ、スタンレー電気、三菱電機、日立製作所)の協力により、HMD、HUD、携帯型プロジェクタ、映像/ホームプロジェクタ、データプロジェクタ、レーザーTV、照明、ヘッドランプにおいて、可視光半導体レーザーのLEDに対する優位性を確認。「ほぼ全ての項目で可視光半導体レーザーの優位が明らかになった」(山本氏)という。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.