倒産寸前の大ピンチからV字回復、ICT活用で復活した紳士服メーカーの戦略イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(6)(4/6 ページ)

» 2016年02月26日 07時00分 公開
[松永弥生MONOist]

若手の縫製職人を育成し、世界一の紳士服縫製技術を伝承

 かつて、谷町には40軒ほどの縫製工場があったが、今ではNFL1軒だけになった。川辺社長の願いは、谷町で培われた世界一の紳士服縫製技術を伝承することだ。そのために、自社の工房で若い縫製職人を育てることに力を注いできた。縫製職人の高齢化が進み、将来、人材不足になるのが目に見えていたからだ。

自社の工房で、世界一の紳士服縫製技術を伝承していく

 しかし、縫製で募集をしてもなかなか人材が集まらなかった。

 そこで、洋服の修繕を行う専門店を開き、そこに若い社員を集めた。梅田のすぐ隣にある中崎町は、雑貨屋さんや古着屋さんがありちょっとレトロな風情だ。なのに、空を見上げると梅田の高層ビルが目に入る。不思議な雰囲気の町だ。川辺社長は、「ここに服のお直し専門店を出したらいいな」と考えたそうだ。店舗でまず洋服の修繕を学び、次に工業用ミシンになれてもらう。そして服の縫製へと徐々にレベルアップさせていく戦略だ。

 若い社員が入るようになると、服飾専門学校からのインターンシップも受け入れられるようになった。今では毎年1人ずつ新卒を採用している。社員構成も20代が8人、65歳以上が4人と若返った。

 「若い職人の定着率はいいですよ」と川辺社長は、自社の職人育成のシステムに自信を見せる。インターンシップのときには、仕事の速さ、丁寧さ、コミュニケーション能力を見る。1着のスーツをチームで作り上げるから、協調性は大事だ。

 大きな工場ではないから、全ての工程が見通せる。自分がここでどんな技術を身につけられるのか、将来の予測が立つのだ。スキルを積めば、任せてもらえる仕事の幅が広がる。ベテランの職人は、自分の技術を残したいという思いがあるから、熱心に教える。若者は技術を吸収し、いつかは自分もスーツを1着縫えるようになると夢をみることができる職場なのだ。

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