空力開発のためのツールはトラックテスト、風洞実験、そしてHPCとCFDとなる。トラックを使ったテストはシーズン前に限定されるなど制約が多く、禁止に近い状況だ。この制限はコスト低減の意図もある。そこで風洞実験とCFDが主な開発手法になる。ただこちらもコスト削減の意図から時間に制限がある。ルールに基づきほとんどのマシンがシーズン開始前には同じ形状になる。その後は革新的な変更はなく、継続的に少しずつ改良を進めていくことになる。重要なのは、設計ペースが速いということだ。レースは2週間ごとに1回のペースで開催されるからだ。
目的はトラック上で高い性能を出すことだ。そのため車体の評価は「オペレーティングポイント」のセットによって評価される。トラックの特性に応じて何が最適かは変わっていく。またドライバーの好みもある。高速および中速でのコーナリングやブレーキング、トップスピードでの性能、トラック状況などのオペレーティングポイントそれぞれに重みづけして設計ポイントを見いだしていく。図3は左が鈴鹿サーキット、右がスペイン、バルセロナのカタロニア・サーキットだ。
特徴的なS字カーブをどう切り抜けるかなど、各場所での空力性能が勝敗を決めていく。
CFDで1番の課題は、開発ペースが速いため、タイミングよく使わなければ効果が出ないことだ。またモデルには細かいステップで変更を加えていく。細かいステップを加えると例えば0.5ポイント減らすことができる。つまりシミュレーションの精度が高くなければ細かい形状の変化による結果を確認できない。そして当然、風洞と同じオペレーティングポイントで比較できなければならない。
CFDのワークフローとしては、プリプロセス、解析、そしてポストプロセッシングと特別目新しいことはない。だがF1ではこのプロセスが効率よく回っている。それはスクリプト化され自動で実行できるからだ。過去にはプリプロセスが常にボトルネックだった。これはCADデータの改善とメッシュ技術への取り組みの強い動機となった。また従来は、大きなクラスタを追加していけば、どんどん速度は上がっていくものだった。
HPCはこの10年間大幅にアップしてきた(図4)。
それとともにF1はCFDツール開発を促進する役割を果たしてきた。ラージスケール非構造メッシング、メッシング・解析・ポストプロセスツールの並列性能、ムービングメッシュとメッシュモーフィングアルゴリズム、効率のよいソルバと解析スキームなどに貢献した。
トップ500のリストは「世界で一番早いコンピュータ500」ともいえるだろう。2005〜2008年の間、F1チームはトップ500のリストに載っていた。だがその後、順位はどんどん落ちてきている。それはルール変更があったからだ。CFDの使用制限が掛かり、現在は最大でも25テラフロップスしか使えない。なお、この制限が掛かるのは、CFDのワークフローのうち解析の部分だけだ。プリプロセス、ポストプロセスについては制限はない。
より性能がよく大きなコンピュータを買えば速くなった時代から、次はより素早くたくさんのケースに対応できることが重要になってきた。制約の中でも、より多くの解析が走るケースが増えてきている。なおその場合、定常RANSシミュレーションでしか計算することができない。非定常だと膨大な時間がかかってしまうからだ。一方スループットが増えたことで、今度はポストプロセスがボトルネックになった。
25テラフロップスのクラスタをどう構成するかを見てみる。平均25テラフロップスの2つのクラスタの例を比較してみると、1つ目は16オペレーションで651コア、2つ目は同じクロック周波数で2オペレーションだが、こちらは5208コアだ。オペレーションが2から4なので、古いテクノロジになる。チームは最新ではなくスループットが高い方を使用することになる。
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