F1の空力設計開発では、膨大なデータを解析し、かつそれを高速に処理することが必要になる。これらの行程を自動化するとともに、FieldViewを使って可視化した例を紹介した。
2015年10月14〜15日に開催されたVINAS Users Conferenceにおいて、スウェーデンCreo Dynamics ABの空力設計テクニカルエキスパートであるTorbjorn Larsson氏が、「CFDワークフリーの最適化―モータースポーツにおける勝利の方程式」のタイトルで講演した。
Creo Dynamicsは約20人のエンジニア集団からなるエンジニアリングサービス提供企業である。特に音響学および空力設計をメインとしている。研究にも力を入れており、自動車や航空宇宙分野をはじめとする国内外の研究プログラムにも積極的にかかわっている。Larsson氏はかつてフェラーリ、BMW、ザウバーに所属しながら、15年間、フォーミュラ・ワン世界選手権レース(F1)の仕事に取り組んできた。さまざまなチームで空力設計やCFDの方法論などをワークフローに入れることに携わった経験から、どのようにF1カーの空力性能を見いだし、CFDのメソッドをプロセスに入れていくかについて話した。
F1は1950年にスタートした。開始以来全てのレースに参戦しているのはフェラーリだけとなる。フェラーリのF1カーは図1のように進化してきた。
「基本構造は似ているように見える。なぜなら『空力性能をいかに上げていくか』というテーマは一貫して同じだからだ」(Larsson氏)。F1は非常にレギュレーションに縛られたスポーツで、車体の基本寸法はFIA(国際自動車連盟)が定めている。
いかに空力性能が大事かを示すのが図2の例である。
2009年に大幅なレギュレーションの変更があった。それまでは空力性能の向上によりなかなか追い抜きが出ない退屈なレースになっていたからだ。そのため空力性能に規制を掛けることになった。
図2を見ると、2008年のモデルはさまざまな空力デバイスが装着されており、もっとも複雑な形状になっている。一方、2009年モデルはずっとシンプルな形状になった。またタイヤは溝のないスリックタイヤに代わった。結果、ダウンフォースを50%減らした。これは1ラップ当たり2、3秒ほどのインパクトがある。
空力設計ということで垂直方向の揚力と水平方向の抗力を扱う。揚力係数は3.5〜3.8、抗力係数は0.8〜1のF1マシンで説明する。この係数をF1レースのポイントに置き換えると、揚力係数3.5は350ポイントのダウンフォースと言い換えられるという。トラックのコンディションや車両タイプなどさまざまな要素も入ってくるが、ダウンフォースが10ポイント増えるということは1ラップごとに0.3秒ほど有利になるということになる。この値はモーターレースにおいては非常に大きい。ポールポジションか5番目のグリッドというくらいの差が出てくる。
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