東北大学は、新たな系統解析プログラムと数理モデルを用いて真骨魚類のゲノム形成について解析した結果、約3億年前に真骨魚類の祖先において3回目の全ゲノム重複が起こった後のゲノムの変化について、新たな知見を得たと発表した。
東北大学は2015年11月16日、魚類の中心的グループである真骨魚類のゲノム形成について、新たな系統解析プログラムと数理モデルを用いて解析した結果、約3億年前に真骨魚類の祖先において3回目の全ゲノム重複が起こった後、コピーされた重複遺伝子がまとまって欠失し、急速に現在の姿に近いゲノムに再構成されたことを突き止めたと発表した。同大学、沖縄科学技術大学院大学、琉球大学、日本大学に所属する5人の研究者たちによるもので、研究成果は同年11月16日の週に米国科学アカデミー紀要(PNAS)電子版に掲載された。
脊椎動物は、今から5億年ほど前の祖先で2回にわたってゲノム(全遺伝情報)が倍になる「全ゲノム重複」を経験した。真骨魚類(約2万6千種が含まれる魚類の中心的グループ)は、さらにもう1回の全ゲノム重複を経験した。これらの全ゲノム重複が脊椎動物の進化にどのように影響をおよぼしたかについては、まだ明らかになっていない。同研究チームは、近年の研究で全遺伝情報が解読された魚類が増えてきたことから、分子系統解析を生かした大規模なゲノムデータ解析を試みた。
まず、大量のゲノム情報から祖先を同じくする遺伝子を見つけ出すために、進化学の本格的な分析手法を適用した解析プログラムを新たに開発した。そして、それを用いた分析結果と、分岐関係と分岐年代の信頼度が高まった脊椎動物の最新の系統樹を活用して、真骨魚類の進化過程で重複した遺伝子が欠失・残存するパターンを解析した。その結果、全ゲノム重複の後に遺伝子数は急激に減少し(第1フェーズ)、その後は緩やかに欠失(第2フェーズ)していることが分かった。
さらに、遺伝子欠失のメカニズムをモデル化した新たな数理解析を導入したところ、第1フェーズでは、全ゲノム重複後のわずか6千万年余りの短い期間に重複遺伝子の約8割がブロックとしてまとまって失われたと推定された。この段階で真骨魚類の基本的なゲノム構造が形成されたといえる。一方、第2フェーズの緩やかなカーブで示された減少過程は、遺伝子が個別に欠失したものと推定された。真骨魚類では、その97%にあたる約2万6000もの多様な種が第2フェーズで出現している。真骨魚類の爆発的な多様化は、第2フェーズで見られる各系統独自の遺伝子別の欠失や、重複遺伝子の片方あるいは双方の別の機能を持つ遺伝子への変化と深く関わっていると推測される。
今回の成果は、真骨魚類がどうしてこれほどまでに適応・多様化し、繁栄しているのかという疑問を明らかにする手掛かりとなるという。また、今回真骨魚類のゲノム進化を探るために考案されたゲノムの比較解析方法は、遺伝子の由来を明確にした上で生物間比較を可能にするものだ。今後、この比較解析方法を脊椎動物進化の根幹で生じた全ゲノム重複の研究にまで適用することで、脊椎動物の起源と発展の謎に迫る知見が得られることが期待される。
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