前回の発表時でも、金属など光を全反射する素材については認証精度が実用に耐え得るレベルに達していた。しかし、プラスチックなどの光沢と透過を含む材質や、繊維や塗装物などの凹凸面による影がある場合などはうまく認識ができない場合があった。
しかし、今回は新たに紋様の画像認証とともに、特徴抽出技術を組み合わせることで他の材質における認証精度を大きく高めることに成功した。新たに認証手法に加えたのは、金属におけるFIBAR特徴抽出、プラスチック樹脂などの光沢特徴抽出、塗装・繊維などにおける影特徴抽出で、従来苦手だった認証をカバーすることに成功。多様な製品への適用を可能とした。
NEC 情報メディアプロセッシング研究所 映像理解テクノロジーグループ 研究部長の宮野博義氏は「既に金属では、1万本のボルトをミスなく個体判別することに成功しており、ミスの確率は1億分の1以下だといえる。まだ詳細なデータを取得したわけではないが、今回の技術強化により他の材質でも近い領域の精度が出せる」と述べている(図3)。
既に同技術は採用事例がある。米国大手ベビー用品メーカーのエルゴベビーが展開する“抱っこひも(ベビーキャリア)”だ。2015年11月に発売する新製品から、この物体指紋による個別認証可能な製品を発売し、偽造品対策に乗り出す。同社の日本正規総代理店であるダッドウェイは「Webショップや店舗などで正規取引のない企業が提供する偽装品を検査し、偽装品であると証明されればしかるべき手続きを取る」(同社)と述べている。
NECにとってこのエルゴベビーの導入事例は、物体指紋認証技術の導入事例第1号となるが「既に実証実験レベルでの導入や共同開発などは数多く行っている。偽造品対策などのニーズも多いが、トレーサビリティなど工業の上流での成果も伸ばしていく」とNEC 情報・メディアプロセッシング研究所長の山片茂樹氏は述べている。
山片氏は同技術の強みについて「偽造品などの認証技術の活用には、読み取る装置や認証するタグなどの用意など多額の対策費用が必要になる。物体指紋認証技術を活用すればこれらの費用は大きく低減することが可能だ。またトレーサビリティなどの活用で考えても、タグなどの設置が難しい部品や素材などにおいても認証が可能である強みがある」と語っている。
今後に向けては、使用時に劣化した製品でも認証できるような技術開発を現在進行中だという。「現状は工業製品の上流工程での使用を想定しているため、使用時に劣化することを想定した認証手法にはなっていないが、今後はこれらの劣化も含めた認証を可能にしていくことで中古製品などでも活用できるようにしていく。また、撮影条件と認証技術の組み合わせを最適化することにより、ユーザーの使い勝手を考慮した認証手法を確立していきたい」と宮野氏は述べている。
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