童夢創業者・林みのる氏が大いに語る――日本レーシングカー産業への提言【再録】ITmedia Virtual EXPO 2015 春(4/5 ページ)

» 2015年07月16日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

会社を作ろうとも成長させようとも何とも思っていなかった

MONOist スーパーGTのようにベースのスポーツカーがあるレースは海外から購入する必要がないと思うのですが。

林氏 GTマシンもね、今ドイツのDTMというレギュレーションの車体部品を使わされてるんですよ。それは欧州がね、自分らの作った部品を売りこむためにいろいろ仕掛けてきたからなんだけど。案の定日本の主催者関係の人もね、それに参加してるメーカーの人もね、安いからそれ買おうよって流れになってきて。レギュレーションはそれを導入してしまった。

 (私は)そうはさせじとぐたぐた言って、でも妥協の産物でしかないんだけど、DTMの設計図に従って国産化すると。周辺部品は欧州から買うと。そんなことで手打ちになったんです。それもほっときゃ全部、輸入になってしまってたわけでね。日本の最大のレース、フォーミュラとGTが、方や全イタリア製、方や全ドイツ製ということになりかねない。いまだにそういうマインドの人達なの。

童夢創業者の林みのる氏

MONOist 今後の童夢はどうなるのでしょうか。

林氏 このインタビューのミスキャストの原因だと思うんだけど(笑)。私は本当に、レーシングカーを作りたくてやってきたんで、会社を作ろうとも成長させようとも何とも思っていなかったんで。それはもう必要なものを必要なように作ってきただけでね。その根幹はレーシングカーを作るためなんですよ。その風洞も、カーボンファイバーの技術も電気の技術も、ウチにはあることはあるんですけど、それもその必然性があってやってることで、これが育つとかこれが金になるとか、そういうのは一切ない。

 やる時は必ず大冒険なんですよ。社内でももう大反対されて、こんなことしてたら会社潰れますよ、みたいなね。じゃあこれをやらなかったら、逆にやっていけんのかと。風洞無しにコンストラクターなんか続けられるのかと。でもこれ、十何億円かかりますよと。そんな話ばっかしでね。

 だからその童夢を続けるっていうことに関してはね、無理としか言いようがないんですね。そんなギャンブルみたいなことばっかしやってこれる人間が、どれか1つ間違いがあったらそこで終わるわけでしょ。でもそれをしないと次に行けないっていう、すごいリスキーなことの積み重ねだった。それを、君がやりなさいっていう人もいないし、多分誰もできないと思うしね。それは能力とかじゃなくて、ギャンブラーじゃないと多分無理だと思う。その正当に考えて戦略的に企業を成長させるとか、そういう概念は全くないから。子どもが目の前のお菓子を欲しがったり、デパートのおもちゃ売り場で足じたばたやったりしてるのと全く一緒の人生なんでね。

 だから後を継承したいという人は、たまたま非常に金持ってるんですよ(編注:2015年7月16日から、レーシングドライバーとして知られる井川高博氏が童夢のオーナーに就任する)。絶対無理といってもね、かなり縮小したんでね。以前の状況のままだったら、これちょっと道を誤るとすごいロスが出るわけです。ロスが出たらいくら金足しても追い付かないからね。従業員も200人ぐらいいましたし、海外合わせると。それを今かなり縮小して、引き渡す時点で言えば25人ぐらいになると思うんだけど、そうなるとそんなに大したロスじゃなくて持続できると思うんで。ま、悪くてでもですよ。その元のままでは誰も引き継げないけど、今なら大丈夫だって状況で、計画をしているわけですよ。これからその規模で何ができるかっていうのは、これからの課題。

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