MONOist となるとGTカーの方が好きなんですね。
林氏 どこを発露とするかは人によって違うんでね、一概には言えないんですけど。私なんかまあ導入部は一般の自動車が好きで、あとはまあ屋根もある車に乗って喜んでたわけで。その延長線上にほとんどの人があるんで、だから思い入れとしてはそこからスタートするとGTとかスポーツカーになると思うんですけど。特にそのドライバーが自分の腕だけを純粋に競うために、あらゆるものを取っ外して行くとフォーミュラカーになるっていう考え方もあるんで、ドライバーズレースなんですね基本は。だから技術者から見ると、つまらないという考えは誰しもあると思うんですけど。
MONOist 童夢が長年参戦しているル・マンは、トヨタ自動車がアウディと激しく争っています(2014年時点)。この状況をどう見ていますか。
林氏 ル・マンなんかはね、ちょっと質問の意味と違うかもしれないけど、アウディとかプジョーとかが走ってレースやってること自体はある意味、欧州の今後のエコカーに対するプロパガンダみたいなもんでね。ご存じのように、数年前からディーゼルエンジンになっているわけですよ。アウディもプジョーもね。で、ディーゼルが決して速いわけじゃないんだけど、欧州のスタンスとしてはこれからのエコはディーゼル、クリーンとエコはディーゼルなわけですね。日本としてはハイブリッドなのね。で、彼らはそのディーゼルがいかにエコでクリーンかというのをプロパガンダするために、ものすごいこの変則的なレギュレーションを作ってね、アウディしか勝てないような状況が5年間ぐらい続いていたわけですよ。今でもそうなんですけど。
それは何かというともう国策に近いよね。普通のガソリンエンジンとディーゼルエンジンが、ひどい時は200馬力くらい違った。ハンディキャップで。まともに勝負したらガソリンエンジンの方が早いんですよ。でもアウディは勝ち続けて、そのおかげでガソリンエンジン車は、ガソリンエンジンクラスといわれるぐらいディーゼルエンジン車と差がついて。結果的にディーゼルってスポーティーというイメージを持ってしまったわけ。そこに日本は出遅れてるから、ハイブリッドで負けているんです。最近トヨタがやっとでてきて、あれも結局政治力でね。いかにこうレギュレーションをハイブリッド側にするかで勝負が決まるようなとこもあるけど。
でも、そういう“意味”を持ってレースをやっているんですよ、自動車メーカーは。だからあそこに金使って入っていけるし、ひるがえって言えばフォーミュラって全然意義が何にもない。例えば、戦闘機に乗ってるパイロットってね、国家的な夢を持って発進するとかっこいいじゃないですか。でも遊覧飛行のおっさんが発進してもたいしたこと無くてね。そういう意義があるものとただの競争と、大きな違いがそこにあると思う。GTレースもそういう部分があって、メーカーの威信を背負ってやっている部分があるから、多少の意義はあるわけです。プロパガンダとまではいかないけれども。その大きな差があると思います。
MONOist 今年(2015年)からホンダがF1に参戦するなど日本の自動車メーカーによるレース活動がまた活発化しているように思えます。
林氏 数年前にトヨタとホンダがF1に参戦していたことがある。あの時は両方とも本拠地を欧州に置いて、公表はされてないんですけど、両社合わせて年間1000億円ぐらいの金が欧州に流れてて。その他にもいろんなことで日本って欧州から買い付けてレースやってる部分が多くて、大概の金額が欧州に流出しているわけです。
例えばそれが2000億円弱だとしても、それが国内で循環したら巨大な産業になるわけですよ。レース界自体は小さいですから。そんなこと言わずに100億円回ってもね、レース界の人って他に使わないから、この中で流通し出すと毎年これが100億円ずつ増えていったら大変な金額になって、非常に豊かな産業になるんだけどね。そういうことを見向きもしないで、全て海外に流出してきたのが今までなんですよね。
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