デジタルツインを実現するCAEの真価
特集
» 2015年06月25日 09時00分 公開

CAEエキスパートが見て・感じた! CAEの最新技術動向&ユーザー事例CAEセミナーレポート(3/3 ページ)

[阿部賢史、藤井理之/ナブテスコ,MONOist]
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材料モデル開発

 材料モデルは従来よりAbaqusが得意とする分野の1つです。筆者もかつて別の会社で研究・開発の受託をした時に携わったことがありますが、理論を具体化する作業は技術者としてとてもやりがいを感じる仕事の1つといえます。先にAbaqusユーザーに研究者肌の方が多いと述べましたが、この分野に方の多さによる印象と言ってもよいと思います。ユーザー事例もそのまま学会で発表されるレベルのものが見られるのが他のソフトのユーザー会と一味違うところです。Abaqus自身の機能としても、樹脂系材料のヒステリシスやクリープ特性を精度よく表現できる粘弾性モデルが追加されるなど、地味ではありますが進化を遂げています。筆者としましても、AbaqusのDNAを残すためにも大事にしてほしい分野です。

金属の水素脆性に関するモデリング(オックスフォード大、オルガ氏) Image Courtesy:Olga Barrera, University of Oxford, Hydrogen embrittlement mechanisms in metals: a modelling approach, 2015 SIMULIA Community Conference. The complete manuscript is available http://www.3ds.com/products-services/simulia/resources
錫(すず)めっきのウィスカ成長に関する研究(日立研究所、寺崎氏) Image Courtesy:Takeshi Terasaki, Hitachi, Prediction of Tin-Whiskers Generation Using Stress and Mass-Diffusion Analysis, 2015 SIMULIA Community Conference. The complete manuscript is available http://www.3ds.com/products-services/simulia/resources

シミュレーションの効率化・環境構築、最適化

データマネジメント、統合環境によるコンカレント設計

 筆者がこれまでいわゆる解析専任者として仕事をしてきた中で感じていることとして、先に示した現実との整合性の観点に加え、データ管理の重要性があります。シミュレーションのみでゼロから現象を表現することが難しいということは述べましたが、別の表現をすると、現実をどう観察し、解析にどう表現すればよいかというモデル化の手法・ノウハウが重要となります。「解析プロセスが俗人的だ」といわれるのは、モデル1つ1つにこのような解析者の考え方や判断が含まれているからと考えられます。これらを明らかにし、解析プロセスを標準化するためには、単に解析データだけでなく、そのプロセスを管理していく必要があります。

 10年ほど前の話になりますが、日本計算工学会の学会誌の特集にAbaqus開発者であり創業者の一人であるヒビット博士の寄稿が掲載されたことがあり、その中でCAEの今後の課題の1つとしてPLMシステムへ解析情報を統合することの重要性に触れた部分がありました。最初に読んだときにはピンときませんでしたが、設計プロセスに解析が活用され出すにつれ、筆者としてもその必要性を痛感している次第です。製品としてもSLM(シミュレーションライフサイクルマネジメント)や3Dエクスペリエンスプラットフォームとして具体化されており、環境としては整いつつあります。

シミュレーションライフサイクルマネジメントの事例(プライムエアロストラクチャー メセガー氏) Image Courtesy:A. Belles Meseguer, PRIME aerostructures, Simulation Lifecycle Managmenet in the real world: Practical application in PRIME aerostructures, 2015 SIMULIA Community Conference. The complete manuscript is available http://www.3ds.com/products-services/simulia/resources

最適化

 DSのアンケートでも最も感心が高かったように、最適化に対する期待は年々高まっています。ジェネラルセッションの中でも3Dエクスペリエンスプラットフォームを使った製品開発(オートバイのディスクブレーキ)のデモが紹介されましたが、その中でディスクの形状検討を多数行うのに「Isight」を使ったパラメトリック形状最適化を取り入れていました。ユーザー事例としても、サポネリ氏(伊プロテサ)からはオートバイのスイングアームの形状を検討するのに、「Tosca」によって位相最適化を行って軽量化に取り組んでいる事例が紹介されました。この手法は現状では鋳物でないと表現できない形状が解として得られるのですが、将来的には金属の3Dプリンタなどにより今まで想像もしなかった形状のものが造られることと思います。

 ただし、その場合でも最適化を使えば何も考えずに自動的に製品ができるかというとそうではなく、いかにその結果を力学的・工学的に考察しブラッシュアップすることができるか、より一層エンジニアリング感覚が求められるようになると感じました。

Abaqus、TOSCAを使用したオートバイのスイングアームの形状最適化(伊プロテサ サポネリ氏) Image Courtesy:Roberto Saponeli, Proesa SPA & UNIMORE, Topology optimization of motorcycle swing arm under service loads using Abqus and Tosca, 2015 SIMULIA Community Conference.

The complete manuscript is available http://www.3ds.com/products-services/simulia/resources

最後に:FEA業界の練れ者が引退

 特派員レポートと称しながら、筆者の“思い”が多分に入り込んでしまい、偏った内容となってしまったかもしれません……。筆者自身はAbaqusのオールドユーザーかつオールドファンの一人なので、DSになってからのプリポスト機能の充実ぶり(この表現自体がもう古さを醸し出してますが……)や、CADだけでなく他のソフトとのシームレスな連携には目をみはるばかりです。今後も引き続き、AbaqusのみならずCAEを活用したモノづくりに関する技術全体の発展を願いたいと思います。

 最後になりましたが、DS SIMULIAブランドのヨーロッパ担当副社長であるフランス・ピーターズ氏のプレゼンが印象深かったので紹介します。ピーターズ氏は過去40年にわたりFEA業界に身を置き、Abaqusのアプリケーション開発に長年従事されてきました。プレゼンではCAEの発展の歴史が彼のこれまでの業績と絡めて紹介されたので、あらためてCAE技術の変遷を振り返ることができ、また近年の発展の早さを感じることができました。

 講演の後、彼の引退を知っていた数人の観客が立ち上がったので、雰囲気を察した人が次々に立ち上がり、最後は全員スタンディングオベーションで拍手喝采が送られました。

 自分が引退する時、500人以上の人たちに拍手で送りだされるということはまずないと思いますので、何とも貴重な瞬間に立ち会えた気がしました。

SIMULIAのエクゼクティブらにより新しい門出を祝福されるピーターズ氏(左から2番目)

筆者紹介

【写真左】ナブテスコ株式会社 技術本部 CAE・材料技術部 参事 阿部賢史

CAEに携ること約20年、CAEそのものの技術開発や製品設計に役立つCAE活用について幅広い経験と知識を有する。SCC参加のモチベーションは、最新技術動向や世界中のユーザーの活用例に関しての情報収集と、コネクション構築である。米国登録プロフェッショナルエンジニア(機械部門)

【写真右】ナブテスコ株式会社 技術本部 CAE・材料技術部 藤井理之

当社が扱う幅広い製品についての構造・熱・流体解析に従事。最新技術、特にマルチフィジックス・最適化技術関連の調査やユーザー、開発者との交流のため参加。過去(2011年、2013年)にはユーザー発表を行った。



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