国内外の設計開発者が参加する大規模なモノづくりの難しさは何か。広く散らばる関係者が同一の設計データを共有することがまず難しい。3次元CADのデータは容量が大きく、インターネット経由のアクセスではリアルタイム性に欠ける。航空機を製造する三菱重工業が選んだのはクラウド+シンクライアントという解だった。
「100万点」――三菱航空機の次世代民間航空機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の部品点数だ(図1)*1)。航空機は量産の対象となるような機械製品の中で最も部品点数が多い。部品点数が多いことで話題になる自動車ですら約3万点にとどまる。
*1) リージョナルジェットとは、ジェットエンジンの一種ターボファンエンジンを搭載した短距離・中距離向けの旅客機。なお、三菱航空機の主要な出資会社は三菱重工業64%、三菱商事10%、トヨタ自動車10%など10社。
航空機の部品データは3次元CAD(3D CAD)で管理されている。当然、設計データを社内の各組織の他、部品メーカー、モジュールメーカーとも共有しなければならない。共有できなければ設計、製造において作業の効率化やリードタイムの短縮を実現できないからだ。
しかし、部品を供給する企業は国内外に散らばっている。MRJの主要協力企業を見ると、米国企業が多い。エンジンのPratt&Whitneyや、電源・空調のHamilton Sundstrand、航法システムなどからなるアビオニクスのRockwell Collins、油圧システムのParker Aerospace、パイロンのSpirit Aerosystemsなどは全て米国企業だ。フラップやラダーなどは台湾AIDC(漢翔航空工業)、降着システムは住友精密工業、フライトコントロールアクチュエーターはナブテスコと協力している。
多数の企業と最新の設計データを共有する際に、三菱重工業は複数の要求事項をもっていた。まず、ファイル容量の大きな3次元CADデータを遠隔地から素早く閲覧、操作できなければならない。操作感を損なってはならないが、高速なネットワークは利用しない、つまり、高価な専用回線を使わないことが条件だ。実現にはネットワークの遅延を防ぐ仕組みがどうしても必要になる。
多数の協力会社の他、さまざまな社内部門からデータへアクセスする運用を考えたため、従来のエンジニアリングワークステーション(EWS)ではなく、安価なノートPCを利用したいという要求もあった。ノートPCの処理性能が低いことを何らかの方法でカバーする技術が必要だ。
さらにMRJは同社の要となる航空機であり、3次元CADデータに対するセキュリティは必ず確保したい。どうすればよいだろうか。
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