MRJの主要構造部品の製造と最終組立を行う三菱重工業の名古屋航空宇宙システム製作所は、クラウドを選んだ。当初の案では「プライベートクラウド」と「シンクライアント」を組み合わせた形態を検討していた。
プライベートクラウドでは、社内に設置したサーバだけを利用する。つまり、データ流出の可能性を下げることができる。クラウド内のサーバとノートPCをシンクライアント技術で接続すれば、ノートPC側にCADのデータは残らない*2)。紛失や盗難によってノートPCの行方が分からなくなったとしても、CADデータが漏れる可能性は低い。
シンクライアント技術では3次元CADデータそのものをサーバからノートPCに転送しない。サーバ上の画面データをノートPCに転送するだけだ。従って、数Gバイトのデータであっても回線が重くなることはない。
さらに、クライアント側に3次元CADソフトウェアをインストールする必要がなくなるため、EWSは不要であり、CADを使っていない部署でも3次元CADを利用できる。まさに良いことずくめだ。
*2) シンクライアント技術では、3次元CADソフトウェアの演算処理などを全てサーバ側が担う。サーバの描画結果やデスクトップ画面そのものは、フレームバッファ(画面の1フレームを保存する領域)に出力される。その内容をクライアント側にリアルタイムで転送する。逆にクライアント側のマウスやキーボード操作をサーバ側にリアルタイムで送る。サーバ(3次元CAD)を目の前で直接操作しているのと同じ環境を作り上げる、これが実現できる。
当初の案はセキュリティに関する要件をほぼ満たすことができた。だが、レスポンスに課題があったようだ。そこで、「クラウド+シンクライアント」という基本コンセプトはそのままに、富士通の次世代ものづくり環境「エンジニアリングクラウド」を選択した。2013年3月に本格導入を開始したところだ(図2)。
富士通によれば、同社のサービスを三菱重工業が選択した理由はレスポンスの高さだという。サーバとネットワーク経由で接続したEWSの場合と比較して、「エンジニアリングクラウド+ノートPC」という組み合わせの方が、30%もレスポンスを改善できたという。
もう1つは3次元CADの画面を複数の拠点で共有、操作できるコラボレーション環境が手に入ることだ。1カ所に関係者が集まらなくてもデザインレビューが将来、可能になるという。
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