CAE利用における解析精度の向上で、自動車業界に大きく変化をもたらしたものの1つに、ドライバーの安全性を検証するための衝突実験がある。かつては、テスト車を何台も用意してダミー人形を乗せ、実際にいろいろな状況で衝突させてデータを取り、次のテスト車にフィードバックしていた。当然ながらテスト車の製作にも衝突実験自体にも膨大な費用と時間がかかる。
これが最近では、モデリングした自動車データを使い、それにダミー人形モデルのデータを乗せ、衝突体(バリアー)データにぶつけてテストをすることが可能になった。JSOLが提供する「LS-DYNA」は、こうした衝突シミュレーションに使う自動車の構造解析ソフトウェアではデファクトスタンダードといえる存在で、国内外の自動車メーカーのほとんどがLS-DYNAを利用している。
CAEシミュレーションの中で衝突実験が高い精度で再現できるようになったことは、衝突実験の費用と時間を大きく押し下げることになった。「衝突実験のためのダミー人形のモデルや、自動車をぶつける衝突体データなども提供されていて、ユーザーが自分で作る必要はありません。CAEを使ったテストはものすごく使いやすくなってきています。コストも時間もそれほどはかかりません。何回ぶつけてもある意味定額です(笑)」(JSOL伊田氏)。
もちろん衝突実験以外にも使い道はいろいろ増えている。「例えば、騒音を小さくするための音響解析をしたり、前方の歩行者をレーダーやカメラで認識して自動的にブレーキをかけるような予防安全機能を並列コンピュータシステムで解析するプログラムを作ったり、本当にCAEの裾野は広がっていると思います」(SCSK中田氏)。
また、CAEの利用分野の広がりと、先に挙げた解析の大規模化によって、「CAEソフトウェアをクラウド上で使いたい」という問い合わせが2014年くらいから急に増えている。クラウド型HPCクラスタサービス(IBM SoftLayerなど)であれば、実用的なパフォーマンスでCAEソフトウェアが利用できるため、ライセンス形態などを整えてクラウド上での利用も提案できるようにしたいという。
以前はCAEソフトウェアについて懐疑的な考え方をする経営層も多かったが、大きな企業ではCAEソフトウェアの効果への理解が進んできた。完成車メーカーがCAEに力を入れていることで、結果的にサプライヤーも使うようになってきたということはあるだろう。とはいえ中小企業ではまだ、CAEを導入するための上層部の説得には苦労があるようだが、「現場の若いエンジニアから『CAEをぜひ使いたい』ということで、『じゃあ一緒に上の方を説得しましょう』ということも結構あります」(JSOL伊田氏)というように、中小企業のCAEソフトウェア利用への要求は若手エンジニアから進んでいる。
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