東北大学未来科学技術共同研究センターの後藤昌史教授らの研究グループは、膵島移植に有効な新規膵島分離酵素成分を同定し、膵臓からの膵島細胞回収率を飛躍的に向上させる新規酵素カクテルを開発した。
東北大学は2015年3月20日、糖尿病を対象とする細胞移植治療の膵島移植に有効な新規膵島分離酵素成分を同定し、膵臓からの膵島細胞回収率を飛躍的に向上させる新規酵素カクテルを開発したと発表した。同大未来科学技術共同研究センター(大学院医学系研究科兼務)の後藤昌史教授、同大大学院医学系研究科の大内憲明教授、佐藤(田頭)真実医師、同大大学院医工学研究科の村山和隆准教授、東京農工大学大学院農学研究院の山形洋平教授らの研究グループによるもので、同月24日付(米国東部時間)の米国際学術誌『Transplantation』電子版に掲載された。
膵島移植などの細胞移植治療は、全身麻酔や開腹手術を必要とせず、ごく少量の細胞を点滴の要領で注射するだけで済むため、次世代の画期的移植医療として注目されている。現在、膵臓から膵島を分離するためのタンパク質分解酵素には、2種の細菌酵素(コラゲナーゼおよびサーモリシン)によるカクテル(混合物)が使用されているが、膵島分離効率の低さが課題となっていた。従来の研究で、コラゲナーゼ産生菌由来の他の酵素成分が膵島分離成功の鍵を握ると指摘されてきたが、その成分は不明だったという。
今回、同研究グループでは、この鍵を握る第3の成分が、クロストリパインという酵素であることを同定。この酵素を用いることで、膵島分離成功率と分離膵島の活性を大幅に向上できることを初めて明らかにした。
同研究では、まず、クロストリジウム菌に存在するクロストリパインに注目し、高純度なクロストリパインの作製に成功した。さらに、同じクロストリジウム菌から高純度な中性プロテアーゼ(ChNP)も作製し、従来使われてきたサーモリシン(TL)と膵島分離効率を比較した。その結果、新規成分を組み合わせた酵素カクテルでは、膵島の分離効率が飛躍的に増加。分離した膵島の障害も、新規成分を組み合わせた酵素カクテルで最も低い(最も健康である)ことが明らかになった。
また、クロストリパインは、同じ菌の中性プロテアーゼと組み合わせることで、相乗効果を発揮。膵島の質を落とさず、膵島分離効率を効果的に上げる酵素剤であることを実証したという。
同研究の成果は、膵島移植で最大の課題の1つとされる、膵島の分離効率の低さを改善する上で有用な知見となり、膵島移植による糖尿病治療の成績改善が期待されるという。同研究グループでは、既に臨床応用可能なクロストリパインの純正品の開発に成功しており、今後はその実用化へ向けて研究を進めるとしている。
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