燃料電池セルスタックでは、容積出力密度が2008年型比2.2倍の3.1kW/l(リットル)となり、最高出力も2008年型の90kWを上回る114kWを達成した。出力密度の向上は、燃料電池セルスタックの小型化につながる。実際に、2008年型の容積64l/重量108kgから、新型では容積37l/重量56kgの削減され、燃料電池セルスタックをシート下配置できるようになった。河合氏は「この性能向上はコストダウンにもつながっている。スタックの体積が半分になるということは、材料費が半分になるということだ」と指摘した。
これらの他、燃料電池セルに送り込む空気の湿度を制御する方式を、従来の加湿器を用いる外部循環方式から、発電で生成した水(水蒸気)をセル内部で循環させ自己加湿することで加湿器が不要になる内部循環方式に変更した。加湿器をなくしたことでシステムが簡素化され、容積は15l、重量は13kg削減できた。
氷点下性能についても2008年型と比べて大きく改善されている。氷点下始動直後の発電性能の向上および「燃料電池の性能を引き上げてスタックを小型化したことにより、熱容量が小さくなり燃料電池スタック自体を短時間で暖められるようになった」(河合氏)ため、暖気性能も向上している。
走行用モーターはコスト低減を図るためハイブリッド車用の量産品を採用している。しかしこの走行用モーターを駆動するには、燃料電池セルスタックからの電圧を2倍以上に引き上げる必要がある。このため新たにFC昇圧コンバータを開発し搭載している。FC昇圧コンバータの採用により、ハイブリッド車用モーターの流用だけでなく、燃料電池セルスタックに用いるセル数の削減にもつなげている。FC昇圧コンバータは、昇圧制御・ケース構造の工夫により優れた静粛性も実現した。
高圧水素タンクは2000年から自社開発を行っており、新型車では炭素繊維強化プラスチック層構成の革新により軽量化を図った。
燃料電池車の走行に必要な燃料電池システムコストは、2008年のFCHV-advと比べてミライでは20分の1に抑えられている。かつては1億円と言われた燃料電池車の価格が670万円まで抑えられたのは、燃料電池システムコストの低減のたまものである。ただし河合氏は、「本格普及に向けてさらなるコスト低減を進める方針」も示している。
量産で先行したトヨタ自動車だが、燃料電池車の市場創出に向けて、燃料電池車自体の商品力を高めるだけでなく、水素ステーションの整備と低価格な水素の供給も重要になるとみている。実際に、グループ会社の豊田通商を通じて、2013年度から愛知県内で水素ステーションの整備を開始している。
河合氏は「2015〜2020年に全世界で数百基の水素ステーションの設置が期待される」と語るとともに、日本国内でも4大都市圏を中心に2015年内に40基程度の水素ステーションの稼働が期待されるという見方を示した。
また、話題を呼んだ、燃料電池車関連の約5680件の特許実施権の無償化についても、「早期普及に向けた“オープン化”と“協調”の精神に基づくものだ」(同氏)と説明している。
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