春野氏らは、人の協力行動における脳の扁桃体と前頭前野の働きを明らかにするため、新たに考案した「信頼ゲーム」を41人の被験者に行ってもらい、その際の脳の血流量をfMRI(磁気共鳴機能画像法)で観測した。
信頼ゲームは、報酬の獲得を目的とするAとBの2人のプレーヤーで行うゲームだ。まずAはゲームに参加するか否かを選択する。Aは不参加を選択すると無条件に報酬を受け取ることができる。しかし、参加する場合に得られる報酬額は、Bが協力するか否かで変動する。ここでポイントとなるのは、Aはゲームへの参加/不参加に加え、Bが協力してくれることで自分が得られる報酬額の割合を意味する期待確率を、0〜100%の間で答えなくてはならない点だ。
Aが質問に答えた後は、プレーヤーBの番だ。fMRIで脳内の血流の動きを測定されるのはBの方である。fMRI内部のモニターには、AのBに対する期待確率に加えて、Bが協力する/しない場合のAとBそれぞれが受け取る報酬額が表示される。Bはこれらの情報に基づいて、Aに協力する/しないを選択する。つまり、Aの自分に対する期待と、それに応えるか否かによるお互いの報酬額の差を知りながら協力するかを判断することになる。
実際に数値を当てはめてみると、例えばAが信頼ゲームに参加する/しない場合のA、Bそれぞれの報酬を300円、500円に、AのBに対する期待確率を80%とする。次にBが協力する場合の報酬を800円、650円に、しない場合を200円、910円に設定する。この場合にBが感じる不平等感については、協力するとAより150円少なく、協力しなければ710円多い報酬を得られるというように絶対値同士の計算により算出できる。
また、Bが感じる罪悪感については、AはBに対して80%の期待確率を持っているため800円の80%である640円をBが協力してくれる場合に得られる報酬として期待している。しかし、Bが協力しない場合、Aは200円しか受け取ることができない。つまり、Bの視点から見るとこの640円から200円を引いた440円が自分が感じる罪悪感の大きさと表現できる。
このように春野氏らが考案した信頼ゲームは、設定する報酬額を変更することで、プレーヤーBが感じる不平等感や罪悪感の大きさを操作できる点が重要なポイントとなっている。
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