今回春野氏らは41人の被験者それぞれに、まずプレーヤーAとしてゲームへの参加/不参加を選択してもらい、数日後に同じ被験者がfMRI装置の中でプレーヤーBとしてAへの協力/非協力を45回選択してもらうという実験を行った。45回の報酬の配分額とAのBに対する期待確率は、罪悪感と不平等感が分離するように設定したという。
その結果、罪悪感と不平等感は協力の割合に影響するという結果が得られたとともに、AのBに対する期待確率の高さよりも、罪悪感の方が協力するか否かの判断に大きく影響するという結果が出たという。さらにfMRIによる脳の観測結果では、右前の前頭前野の活動が罪悪感と、扁桃体と側坐核の活動が不平等感と連動した活動を行っていることが読み取れたとしている。
しかし、本当に前頭前野の活動だけが罪悪感に関係しているのか。春野氏らは、そのことをさらに明確にするため、新たな実験を行った。実験の概要は、前頭前野に微弱な電流による刺激を与えて活動を活性化させることで、罪悪感による協力のみが増えるかどうかを確かめるというものだ。この実験の結果、不平等感による協力程度には大きな変化はないが、罪悪感による協力は大幅に増加したという。
今回の研究の成果を整理すると、前頭前野は相手の期待と自分の行動の差のシミュレート(罪悪感)に関する表現を行い、扁桃体は自分と他者の比較による不平等感を表現するということが明らかになった。さらに春野氏は今回の成果として、数理モデルを利用した定量的解析法を開発したことで、脳内の複数のプロセスを特定して、選択的に操作することが可能にした点が、今後の脳神経科学研究に貢献する可能性を挙げた。
また同氏は今回の成果の応用例として「例えばうつ病に対する治療の一例である、抗うつ剤や認知行動療法などは、それぞれ脳のどの領域に作用するかは異なるといわれている。しかし、うつ病そのものは、うつ病としてひとくくりになっている。今回の実験で脳の領域ごとの機能が明らかになったことで、人の進化のメカニズムの解析に加え、こうしたうつ病などの精神疾患の分類にも貢献できる可能性がある」と説明した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.